文章

~ルーク・ハントの場合~

「……やぁ、獅子の君。君がこの授業に出ているなんて珍しいね」教室の中段辺り。三人掛けの机の真ん中を一人で陣取る見慣れた後ろ姿。思わず音を立てずに近寄って彼の隣に腰掛けた。朝から数えて丁度三つ目の授業。トレイン先生の魔法史に彼が参加しているな…

~ハーツラビュル寮の場合~

「さて、何故僕に呼び出されたかわかるかい?」我が麗しの寮長がエーデュースちゃんたちを寮長室へ呼び出して穏やかに詰問している。詰問するのに穏やかも何もないかもしれないけど、見せしめみたいに談話室で詰問するんじゃなくて、オレとトレイ君に頼んでこ…

~エース・トラッポラの場合~

あんまりダラダラと走って他所の先輩を待たせるワケにはいかないし、適当に走ってレオナ先輩の元へ向かう。走りながら、俺の頭のなかは『俺、何かしたっけ?』とただそれだけがぐるぐると回っていた。「あのー……俺に何か用すか?」正直全くと言っていいほど…

~デュース・スペードの場合~

「二人ともお待たせ! グリムもごめんね!」中庭で待っていた俺たちの元へパタパタと駆け寄ってくるユウに片手を上げて返事をすると、エースがわざとらしく肩を竦めて唇を尖らせた。「もーちょー待ったー! 待ちくたびれてもう俺立てないー!」「ご、ゴメン…

~サバナクロー寮の場合~

「おいジャック。ちょっとツラ貸せ」ジャックと一緒に当番の仕事をこなしていると後ろから寮長の声がしてビクリと肩を震わせた。少し不機嫌な顔をしている寮長にヒェと小さく声を上げそうになるのを何とか堪えながらバッと頭を下げると、ジャックは返事もそこ…

○○しないと出られない部屋

「……だいぶ理解が深まったんじゃねぇか?」小さな膝の上に不釣り合いな程分厚い歴史書。いかにも歴史書らしい重厚で威厳のある装丁を、白くて細い指が支えている。ちょうど解説していた章が終幕を迎えるところで、丁寧に文字を辿っていた指先が止まった。「…

あなたのための恋物語 あらすじ

これは「あなたのための恋物語」のあらすじです。まだ小説化されていない部分のあらすじも含みます。要は完全なるネタバレですので、その点をご理解いただけた方のみお読みください。どうぞよろしくお願いいたします。ただの先輩と後輩だったレオナとユウ。あ…

鳥籠なんて似合わない

目が覚めたら青い小鳥になっていた。なんてどこかの小説や童話や絵本から飛び出してきた物語が自分の身に起きているのに、それを冷静に受け止めている自分はいよいよこの世界に染まってきたなぁ、とどこか他人事のように感じてしまう。起きたら異様に低い視界…

陽だまりに水を差してはならない

お前も昼寝すればいいんじゃねぇか、とは言った。言ったのは俺だ。ウトウトと陽だまりのあたたかさに包まれて今にも船を漕いでしまいそうなユウに、眠たいなら寝ればいい、と。確かに言った。それはもう間違いなく。誤魔化しようのないくらいに。だからと言っ…