文章

○○しないと出られない部屋

「……だいぶ理解が深まったんじゃねぇか?」小さな膝の上に不釣り合いな程分厚い歴史書。いかにも歴史書らしい重厚で威厳のある装丁を、白くて細い指が支えている。ちょうど解説していた章が終幕を迎えるところで、丁寧に文字を辿っていた指先が止まった。「…

あなたのための恋物語 あらすじ

これは「あなたのための恋物語」のあらすじです。まだ小説化されていない部分のあらすじも含みます。要は完全なるネタバレですので、その点をご理解いただけた方のみお読みください。どうぞよろしくお願いいたします。ただの先輩と後輩だったレオナとユウ。あ…

鳥籠なんて似合わない

目が覚めたら青い小鳥になっていた。なんてどこかの小説や童話や絵本から飛び出してきた物語が自分の身に起きているのに、それを冷静に受け止めている自分はいよいよこの世界に染まってきたなぁ、とどこか他人事のように感じてしまう。起きたら異様に低い視界…

陽だまりに水を差してはならない

お前も昼寝すればいいんじゃねぇか、とは言った。言ったのは俺だ。ウトウトと陽だまりのあたたかさに包まれて今にも船を漕いでしまいそうなユウに、眠たいなら寝ればいい、と。確かに言った。それはもう間違いなく。誤魔化しようのないくらいに。だからと言っ…

真昼の太陽と赤い頬

たまたま偶然、こんな状況になってしまっただけで。俺は何も悪くない。言い訳みたいに聞こえるかもしれないが、俺は普段からコイツは女であると充分気をつけていたし、女性であるユウに対して敬意を払い彼女を尊重するように、意識して距離を保ってきた。それ…

胸が苦しい!何とかしろ!

「胸が苦しい! 何とかしろ!」暑苦しい胸元を更にさらけ出してイライラした気持ちのまま叫ぶ。窮屈な服のなかで暑苦しく存在感を主張する肉の塊は、その弾力で今にも白いブラウスと黄色いベストのボタンの寿命を奪おうとしていた。「は、はえ……何とか、え…

芽生え

「うーん……ここは、こう? だから……えっと、こう? かな?」首を傾げながら、指で丁寧に文字の羅列を辿っていく。それに合わせてノートにペンを走らせると、見知ったようで何処となく違和感のある文章が出来上がった。「……あれー? やっぱり違うなぁ…