欲求不満の向き合い方 - 5/5

「ターシャ」
ユウの部屋から出てきたらしいターシャを廊下の真ん中で捕まえる。
何でしょうか、と聞かれる前に目と仕草だけで誘導し、俺の執務室へ向かった。
念のため、周囲に誰も居ないことを確認して、堂々とターシャを執務室に招き入れる。
ちょうど誰も居ないタイミングを狙ったのは功を奏したようで、ラギーが戻ってきた気配もない。
二人で堂々と執務室に入室したのだから、不貞を疑われることもないだろう。
二人になった途端、何の用だ、と相変わらず不敬な態度で俺をジロジロ見てくるんだから、本当にコイツも肝が据わっている。
だからこそ、ユウの友だちをやってられるし、侍女としてユウを守ってくれているんだろう。
ふぅ、と息を吐いて隠し持っていた小さな袋二つを取り出す。
「受け取れ。賄賂だ」
「賄賂」
怪訝な顔をしつつも、それを受け取るターシャの図太さに、思わずクククと笑ってしまう。
「お前には世話になったからなァ……これからもよろしく頼む」
「はぁ」
「それだったらお前も使えるだろう。んで、お前ならユウも使えるよう何とかしてくれんだろ?」
ニヤリと笑ってみせれば、ターシャは一瞬だけ眉を寄せてサッと袋の中身を確認する。
獣人用の装身具。
主に耳が立っている種族に使われることが多い頭の装身具だ。
新しい髪飾りがほしいなぁ、とユウがターシャと話していたのを思い出して、二人分を色違いで手配させた。
「ユウとお揃い、ってコトですか?」
なんで? と疑いの眼を隠すことなく俺に向けてくるターシャに、あぁ、と短く答えてゆったりと腕を組んだ。
「お前は仕事をしただけなんだろうが……まぁ、その、なんだ。コレは礼だ。素直に受け取っておけ」
それでようやく俺が何のコトを差しているのか理解したターシャは、にんまり笑ってピンと耳を立てた。
「……ご満足いただけたようで何よりです」
王宮内のメイド達が下世話な話をするときとはまた違う表情で、ターシャは俺を見上げている。
ユウと歳も近く、友人である気安さが、同級生とそういった類いのことを話しているような雰囲気を作っているのかもしれない。
悶々と一人で悩んでないで、とっととコイツにも相談してみればよかった、と小さく溜め息を吐いた。
「……また頼む」
赤い顔を見られないよう短く答えると、ピンと背筋を伸ばしたターシャは、大袈裟なくらいに真面目な顔をして胸を拳で叩いた。

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