欲求不満の向き合い方 - 2/5

「今日の髪型はどうする?」
「……緩くひと纏めでいい……どうせ誰にも会わないし」
「えっ……ランチは?」
「ターシャと食べる……レオナさん、怒ってるだろうし」
「えぇ……怒っては、ないでしょ……たぶん」
アレは怒ってるっていうよりしょぼくれた仔犬、と私の髪にブラシを通しながらターシャは続ける。ターシャはそのまま私の髪を横に流すように緩く三つ編みを編んで、お気に入りのシュシュで纏めた。
「……次にレオナさんと会ったら……国外追放処分とか、言い渡されるのかなぁ」
「ハァ? 有り得ないわよ、ユウを追い出すなんて」
「でも……レオナさん、黙って部屋を出て行っちゃったもん……絶対怒ってるよ」
「いやぁ……それはないでしょ……怒るっていうか、凹んでんじゃないの? 殿下は意外と繊細でしょ?」
「レっ、レオナさんは意外と繊細なんじゃなくて、本当に繊細なのっ!」
「あーハイハイ、そうね、殿下は繊細でかわいいのよね」
前のめり気味で否定した私の言葉に、ターシャは苦笑いしながら返事をする。
「繊細でかわいいは横に置いておくとしても……レオナ様はユウが爪を立てて引っ掻いたって可愛い仔猫がじゃれついてるくらいにしか感じてないと思うけど」
「わ、わたしレオナさんの肌に傷付けたことなんてないよ!」
「……そうなの? 意外とあっさりしてるのね?」
「あ、あっさり……? やっぱりそうなの……? 私はそんなことない、と思う、けど」
殆ど毎日、レオナさんに触れてもらって満たされて、これがあっさりした行為だとは私には到底思えない。子どもができるまでの期間限定なのかもしれないけれど、それでも充分レオナさんに愛してもらっていると私は感じていた。一緒になるまでいろいろ紆余曲折があり過ぎたという自覚はあるけれど、レオナさんから貰った愛をしっかり返せるよう王族の務めを果たさなくてはと毎日自分にできる範囲で精一杯頑張っている。きっとまだまだ足りないから、もっとこの国のことを学んで、たくさんいろんなものを見て、自分を活かせることを探していきたい。
「……ユウ様にお食事をお持ちしました」
控えめなノックの後、ターシャがパンケーキを持ってきてくれたメイドさんに応対してあっという間に食事の準備が整う。焼きたてほかほかのパンケーキにたっぷりのシロップが注がれて、ふわりと甘いかおりがテーブルの周りに漂った。
「紅茶はミルクでいい? お砂糖はどうする?」
「……今日は甘いのがいい……とことん自分を甘やかしたい」
くしゃくしゃに潰れた缶みたいな今の気分は、どこまで甘やかせば元通りになってくれるだろう?
シロップでひたひたにしたパンケーキをひと口大に切って、口の周りがシロップで汚れることも気にせずパクリと頬張る。ミルクたっぷりの甘い紅茶も口に含めば、お砂糖という魔性のカロリーがちょっとだけ私に優しくしてくれる気がした。
「……恥ずかしいところを、レオナさんに見られちゃった」
甘味という魔法で自分をケアしてはみるものの、正直どうやって立ち直ればいいのかわからない。あんなに声を上げたのも初めてだし、気を失うまで熱に浮かされて訳が分からなくなったのも初めてだ。最後の方は我を失ってレオナさんを求めてしまっていた気がする。記憶が曖昧になってしまっている分、レオナさんの目に私がどんな風に映っていたのか想像するだけでも恥ずかしくて、もうレオナさんと一緒に寝ることすらできないように思えた。
「……ユウはそれがイヤなの?」
不思議そうな顔をして私の顔を覗き込んだターシャは、まるで何も変なことはひとつもないでしょ? と言いたげで、思わず唇を尖らせて不平を伝えた。
「だって……自分の一番恥ずかしい姿を一番見られたくない人に見られちゃったんだよ。もうどうすればいいのかわかんないよ」
願わくばツノ太郎に頼んでレオナさんの記憶を消してもらいたい。ツノ太郎の魔法の威力は馬鹿にならないくらい大きくてスゴイというのは学生時代に思う存分嫌になるほど体感実感して骨の髄まで身に染みているから、多分記憶を消すなんていう大掛かりな魔法をお願いしたら何処まで何が影響してしまうのか魔法が使えない私には想像もできない。昨日の夜の記憶だけ消してもらおうとするときっと昨日の出来事の仔細だけでなく事細かな状況、どうしてレオナさんの記憶を消してほしいのかという理由まで丁寧にツノ太郎に説明しなければならないだろうから、それはそれで恐ろしい恥辱に耐えなければいけないし、気を遣ったツノ太郎がレオナさんに変な助言をしてしまって喧嘩勃発、そのまま国際問題に発展、なんてことになったらますますこの国での私の立場が厄になってしまう。そうなったらもう絶対離婚待った無しなのは間違いない。やっぱりツノ太郎に相談するのは止めておこうと思い直した。ヴィル先輩のユニーク魔法ならピンポイントで記憶を消すのも可能かも? いやでもやっぱり事情説明は避けられないだろうし、そうなると多分レオナさんはヴィル先輩に殺されるかもしれない。それは困るから……じゃあアズール先輩と契約して何とかしてもらう――のは多分駄目だ。だってきっと対価を要求されるどころか今回の依頼内容を弱みを掴んだと判断して無償契約してきそうだ。タダより怖いものはないって散々アズール先輩に耳にタコができちゃうくらい教え込まれた。どうしよう、八方塞がりでもう対処が思いつかない! 何か良い方法はないかしらとウンウン頭を抱えていると、じっと私の様子を窺っていたターシャが口を開いた。
「ふぅーん……ユウはそういう風に感じるのね?」
ほんの少し戸惑うような、不思議そうな表情を浮かべてターシャは私を見ている。ターシャが首を傾げているのと同じ方向に私も首を傾げて聞き返した。
「うん。そうだよ。だって恥ずかしいじゃない?」
ターシャの表情に違和感を感じながら問うと、ターシャは、うーん、と腕を組んで考え込んだ。
「えっと……なんて言うか、その反応はちょっと意外、かな」
「……どういうこと?」
あんなに恥ずかしい思いをしたのだから、それを恥ずかしいと思うのは当たり前じゃないの?
獣人さんたちはそうじゃないってこと?
浮かんでくる疑問にますます首を傾げていると、えっとね、とターシャは指でくるりと空を掻き混ぜて口を開いた。
「何て言えばいいんだろ……獣人属って性にオープンっていうか、パートナーに対して自分を解放することで愛情表現するの」
「……自分を解放?」
「そ。だから、むしろ私たちはいろんな姿をもっと相手に見てほしいって思うのよ。もちろんその分パートナーにも見せてほしいし……お互いしか知らない姿を、どんどん見せ合うっていうか」
「……はわわ」
明かされた獣人属の真実に、思わず紅くなった頬を指で隠す。
お互いしか知らない姿を見せ合うなんて。
そんな恥ずかしいことを積極的にするのが、獣人さん達の愛情表現だと言われたら、私の歩んできた世界とは違いすぎるとしか思えない。
性にオープンなところがある、って言っても今までレオナさんはそんな雰囲気を匂わせてきたことなんてなかった。
学生時代、頭を撫でてもらったりはしていたけれど、唯一の思い出である二人きりで賢者の島へお出掛けしたあの日だって、手を繋いだり、肩が触れ合ったりが精々で、レオナ先輩ってやっぱり王子様なだけあって紳士なんだなぁと思ったのも覚えている。
自分の裸を隅々まで見せるだけでも私のなかでは精一杯なのに、これ以上と考えるだけで恥ずかしさで頭が爆発しそうだった。
「それに……殿下はライオン属じゃない? 本来はハーレムの中心にいるタイプなのかもしれないけれど……ハッキリ言って誰から見てもユウにゾッコンでしょ?」
「ほわぁ」
「だからユウにもっと自分を解放してほしいのかもね……殿下しか知らないユウをもっと見たいし、殿下だけに見せてほしいっていうのかな」
ユウとの閨がちょっぴり物足りないって思ってたのかも、と訳知り顔でターシャは続ける。ターシャから与えられた情報の濃さと量で既にキャパオーバーになりつつあるのに更に上を求められているかもしれないという推測を聞かされて頭がクラクラしてきた。
私の身体でレオナさんの触れてないところは無いというくらい、今のところほぼ毎晩レオナさんに触れてもらって、その、何と言うか、とってもイチャイチャできていると思っていた。すごく幸せだし、満たされているし、頭を撫でてもらえるよりももっとすごいスキンシップに、毎日溺れそうになって、ギリギリのところで息を繋いでレオナさんに縋る。置いていかれないように、離されないように、レオナさんにしがみついて愛を受け止めてきた、つもりでいた。それが、まさか、もっと、だなんて。
「まぁ単純に欲求不満っていう可能性もあるけど」
「よっきゅうふまん……」
「獣人って……やっぱり体格がよかったり、グラマラスなボディに恵まれてたりする人が多いから…ユウはその……華奢だし、細身じゃない? それが魅力でもあるけれど、やっぱり、ねぇ……?」
「んええええッ!? やっぱりつるぺたはごめんなさいってコトぉッ?!」
「ンンッ……フフ、ブッ……んんッ、まぁ……そうなのかもしれない、としか私からは言えないかな」
強く否定するわけでもなく、かと言って大きく肯定したわけでもないターシャは、笑っている顔を無理矢理整った表情にしてよくわからない難しい顔になっている。それならハッキリ言ってよぉ、とターシャに泣きつこうとして、ハッと昨日の行為の最中の出来事を思い出した。
「そういえば……昨日のレオナさん、もっと、って言ってほしいって……もっとって、いっぱい、言わされちゃっ、た……」
それって、やっぱり、そういうこと、なんだろうか。
充分だと思ってたのは私だけで、レオナさんは全然満たされてなかった。
そんなハズは、と思おうとしても、全部私の主観でしかなくて、こんな事なら、学生時代にもっとクルーウェル先生や他の男の子たちに、いろいろ聞いておくべきだったかもしれない。
どんな男だって、好きな相手とベッドを共にできればこの世の全ての名誉を一度で手にしたような喜びに満たされるもんだ。
マブや他のみんなにそう言って、大人の顔で笑っていたクルーウェル先生は今でもすぐ思い出せる。
そのときは、ふぅーん、と何となく聞いて、そういうものなのか、と受け入れていた。
素直にその言葉を受け止めて、深く考えることもせず、レオナさんも自分と同じように満たされていると思い込んでいたのは、やっぱりまだまだ未熟で、私が子どもっぽいという証明なのかもしれない。
「……レオナ殿下が特殊な性癖をお持ちだ、みたいな噂は聞いたコトないのよね……まぁ誰も寄せ付けなかったから、誰も知らなかった、っていう可能性も否めないけど」
「……特殊な性癖、って……そういう、その、大人の、そういうの使ったりしたい、とかそういうこと?」
私の問い掛けにパチパチと瞬きを繰り返しているターシャは、再び難しい顔をして腕を組んでしまった。
「ちょっと、そういう、が多すぎない? まぁでも、そういうことよね。ひょっとしたら他にももっと何か抱えてるのかも」
「エッ?! 他にも!?」
「いや、わからないわよ? 私は聞いたこと無いってだけで。他の王族の方々と違って、レオナ様は他国の、しかも男子校に通ってらっしゃったわけじゃない? 男だらけの環境で、何かこう……捻じ曲がっちゃったかもしれないじゃない?」
「捻じ曲がる……?」
「ホラ……女から見れば有り得ないような妄想に染まっちゃったり、あれだけ美人なんだし男同士で秘密の関係、とか」
ターシャがちょっとだけ目を泳がせながら言った『男同士の秘密の関係』がふわりと頭の中に浮かんでハッとする。レオナさんの周り、というよりNRCはとにかく顔の良さでも合否判定されるんじゃないかと思うくらい皆イケメンか美人ばかりだった。レオナさんはその筆頭で、顔が良くてセクシーなレオナさんに靡いてしまう男の子たちもいたかもしれない。イケメンに言い寄られて抱き寄せられるレオナさんを想像して、ひゃあ! と叫び声を上げそうになった。
「れれれれれおなさんはそんなコトしないもん!!!」
「だ、だからわからないって言ってるじゃない! 私も適当に喋ってるだけよ! とにかく! 何か不満があるのかもしれないわ、ちゃんと二人で話し合って、関係を修復した方がいいと思うわ」
「……話し合いをして、和解できたら……これからもレオナさんのお嫁さんでいられる、かな?」
「ユウはこれから一生ずっと何があろうとレオナ殿下の妃よ絶対に逃げられない保証してあげるわ」
「そうかなぁ……」
「アンタは何も知らないそのままのユウでいて。というより知らない方がいいわ寧ろその件について悩むのもやめた方がいいと思うバレたらきっと恐ろしいことになるわ」
「……え?」
「……こっちの話。まぁ、猟奇的な性癖とか、暴力ふるって悦ぶタイプの男じゃなくてよかったわ。獣の血の所為にして異常性癖を振りかざす奴が獣人属のなかにたまーにいるのよね」
「レオナさんは優しいよ?」
「優しくても嫌がってるのに無理強いしてちゃ意味ないでしょ。無茶なコトされて、身体に痛みとか残ってない? 大丈夫?」
「それは……大丈夫。気を失っちゃっただけ、だから」
「ふぅーん……殿下はもっと情熱的な夜がお好みなのかもねぇ」
すっかりシロップでベショベショになってしまったパンケーキを眺めて、ターシャは自分用に淹れた紅茶にそっと口を付けた。呆れているようにも見えるけれど、ちょっぴり寄った眉が割と真剣に考えてくれていることも伝えてくれている。べたべたに甘いパンケーキを口に放り込んでから私も一緒に眉を寄せて考え込んだ。
「ねぇ……情熱的な夜、って、例えば?」
「それはぁ……人によるので何とも言えないわよ」
「そっかぁ……私はどうすればいいんだろ?」
「レオナ殿下本人に直接聞き出すしかないと思うけど……」
「うーん……私たち、あんまりそういうことをお話せずに結婚したから……それに、レオナさんはそういうの、興味ないってずっと思ってたの。学生時代、頭を撫でてもらうことはよくあったけど、一度も色っぽい雰囲気になんてならなかったし。だから私がつるぺたのお子様体型だから、そういう気持ちにならないんだろうなって」
「ブフッ……ね、ねぇ、もうやめて、その、つるぺた、っていうの」
「だって! 獣人さんたちに囲まれて過ごしてたら、イヤでも私がつるぺた体型ってわかるよ!?」
「ンフッ、ま、まぁね、そうね。獣人属は比較的グラマラスな人が多いわね。っていうより、痩せてるとどうしても貧困とか虐待を疑われるのよ。あとは成長できない病気とか」
ターシャはちょっとだけ苦笑いして気まずさを誤魔化した。ふと思い浮かぶのはこの国のスラムの人たちだった。
この国では、身体つきですら差別の対象になってしまうのか。
そんなのあんまりだ、と思う反面、少しずつではあるもののこの国がどういう国なのかと理解しようと日々努力していると、それは充分に有り得ることだろうな、とわかってしまう自分もいた。
そして、その差別の対象に、きっと自分も含まれるということも。
使用人として働いていたときに受けたソレを僅かに思い出し、もっと頑張らなくてはいつまでもレオナさんの隣で笑い続けることは無理かもしれない、と思い直す。でも、体型に関してはどうしようもない。自分だって、もっと成長すればママのようなスレンダーボディを手に入れられると信じていた。結果はパパに似た小柄でこぢんまりとした体型にしかなれなかった。これ以上胸を大きくするなんて、整形手術を受けるしかないんじゃないだろうか。きっとヴィル先輩に物凄く反対されてすっごく怒られてレオナさんにも思いっきり苦情が飛んでしまう気がする。手術は無理だな、と落ち込みながら自分のささやかな胸の膨らみを撫でていると、迫真の表情を浮かべたターシャにガシリと肩を掴まれた。
「ユウ。諦めないで。おっぱいは作れる!」
「お、おっぱいは作れる?」
「腰は細いんだから、胸だけ何とかしちゃえばいいのよ。腰のくびれがあって、それっぽく胸を盛れば、お尻だって大きく見えるように男の目はできてるの!」
「……そ、それって詐欺なんじゃ」
「詐欺でもなんでもいいの! 錯覚させてしまえばこっちの勝ちよ!」
お化粧して化けるのと何ひとつ変わらないわ! と高らかに宣言したターシャは、ピッと自慢の耳と鼻を高くしてフフンと胸を張ってみせる。
「ユウ様が悩んでいらっしゃるのであれば、侍女の私の力の見せ所! ひと肌脱がせていただきますわ!」
目をキラキラさせて、ターシャは私に向かって身を乗り出す。その勢いに負けてちょっぴり背を仰け反らせると、何だかヤル気に満ち始めたターシャがニコニコ笑って私の顔を覗き込んだ。
「まずは戦闘服を準備致しましょう。それから一日かけて、私がユウ様に狩りを伝授いたします」
キュッと細くなったターシャの黒い瞳孔が私を見つめる。
「か、狩りっ!? 戦闘服、って……どういうこと?」
私何かと戦うの? と首を傾げて眉を寄せていると、ターシャは驚いたように眉をぴんと跳ねてからニヤリと意味ありげに笑った。
「……メスとオスがベッドの上で向き合えば、それはもう戦闘開始の合図ですわ」
「せ、せんとうかいし」
「オトコとオンナの睦言は喰うか喰われるかの命懸けの戦争よ」
「い、命懸けッ!? 戦争なのぉッ?!」
嘘でしょォッ!!! と叫びそうになるのを堪えて目を見開くと、ターシャは深々と頷いて人差し指を突き出した。
「殿下は特にライオンの獣人……絶対狙った獲物は逃さないと思うわよ?」
心当たりがあるのでは? と首を傾げるターシャに、学生時代の出来事をふわふわと思い出す。
確かに学生の頃、レオナさんから同じような台詞を何度か聞いた気がする。テストの点がとっても悪かったサバナクローの寮生だったりとか、マジフトの試合で揉めた相手選手だったりとか、レオナさんのお昼ご飯を横取りしていこうとしたオス猫ちゃんだったりとか、狙った獲物と言われた相手はいろいろだったけれど、みんな何かしらの方法でレオナさんに捕まったりNRC流の制裁を下されたりしていた。
「うーん……そう言われてみれば、狩りを失敗しているレオナさんって見たことない。でも、狩りじゃないことは結構失敗してたかも?」
「それは……殿下が何でもできる完璧超人だったなら、この国はもっとマシに発展してるわよ」
「え〜……? それこそ、そんなことないんじゃない? レオナさんが完璧超人だったら、他の人の気持ちなんてわからない冷酷な王様になって反乱が起きてそう」
「……ちょっと想像しただけなのにビックリするくらいしっくりくるんだけど。ってそういう話じゃなくて! えーっと……あっ! そうか! 殿下って獲物を追いかけたいタイプなのかも!」
「獲物を追いかけたいタイプ?」
「だってホラ。学生の頃からずっと、ユウが殿下を追いかけてたんでしょ? こんな国まで追っかけてくるくらいに」
「うぅ〜ん……? そうかなぁ……追いかけるっていうより……虎視眈々と相手が罠に引っ掛かるのを待ってるタイプじゃない?」
「確かに……? いやでも、ユウが罠に掛かるのを待ってる、ってことじゃない? 本当はユウのこと追いかけ回したいのかもしれないわ。だから何となく欲求不満になっちゃって、ユウに変な形で欲望をぶつけてるのかも」
ホンット、拗らせ過ぎでしょ……とターシャは鼻の頭に皺を寄せて小さく呟いた。
レオナさん、また一人で抱え込んで悩んでるのかなぁ?
私にもレオナさんが抱えていることを話してほしい。やっぱり、まだまだ子どもっぽくて頼りないから話せないんだろうか。
もっともっと、政治のことを学んで、いっぱい頑張って、レオナさんにとって頼りになる存在だと認識してもらえるようになりたい。
「そうとなれば、そうね……今日の戦闘服は私が用意するわ。あとは……」
うんうんと唸りながら何かを考え始めたターシャを見つめつつ、こっそりと溜め息を吐く。
ただ隣にしがみ付いているだけじゃなくて、レオナさんの隣に並んでいられる存在にはやくなりたい。
本当に、なかなか『好き』だけじゃままならないなぁ、と青く晴れた空を窓から見上げる。窓辺に遊びに来た小鳥が、何となく私を励ましてくれているように感じた。

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