「君らは、お互いが透視えていないんだよ」
眠りに就いた賢木を横たわらせながら、独り呟く。
「何故、使える力を全部使ってでも手に入れようと貪欲にならない?」
返事が返ってこないとわかってはいても、話し掛けることをやめずに続ける。
「お互い、唯一の例外を自覚したら、意識せざるをえなくなるさ」
そんなわかりきったことをわかっていないのは、二人の若さのせいなのか。
「さて、見学させてもらおうか。君らの運命の絆とやらをね」
そこに丁度タイミングよく賢木の携帯が鳴る。
発信元の名前を見て、ふっと笑いながら通話ボタンを押した。
「…もしもし、賢木?」
「やぁ、久し振りだね。皆本光一」
電話越しにひゅっと息を呑む音が耳に届いて、次の反応を予測して携帯を耳から離す。
「どうして賢木のプライベートの電話にお前が出るんだ!兵部ッ!」
予想通りの、奴らしい叫び声に笑いながら、携帯を耳に当ててこちらも喋ることにする。
「随分な挨拶だな。ヤブ医者は電話に出られない状態でね。僕が側にいるから代わりに出たまでの話じゃないか。」
「…お前、一体何処にいる?」
「ヤブ医者の住まいさ。」
そこまで話して、携帯がブツリと音を立てて切れる。
ふっと笑いながら彼等の到着を待っていると、ガチャリと玄関の方で音がして、パタパタと複数の足音が聞こえてくる。
「お早い到着な上に玄関から入ってくるとはご丁寧なことだな」
「何故お前がここにいる?兵部京介ッ」
「…賢木先生ッ」
一番に女帝が賢木の状態に気付いて駆け寄ってくる。
その慌て様に、思わず、やはりな、と呟きそうになりながら、不敵に笑ってみせる。
賢木は自分を運命の外側だと思っているみたいだが、君らには君らの運命の歯車が存在する。
それが一体どの分岐の未来に繋がるのか、見せてもらおうじゃないか。
賢木を揺すって起こそうとしている女帝に向かって、ゆっくりと告げる。
「あと24時間で、賢木の記憶は完全に消える。とは言っても、一部だがね。」
「お前、一体賢木に何をしたッ!」
「…パンドラへの招待状を渡しただけさ。」
「なッ!賢木がパンドラになんか行くわけ」
「記憶の一部を消して、パンドラの構成員として育て直すつもりね」
強い視線の女帝と視線が絡む。
いいね、いい表情をするようになった。
君がどれだけの力を持って運命に抗うのか、お手並み拝見といこうか。
「次にヤブ医者が目覚めたら、迎えに来るよ。パンドラのイチ構成員として、ね」
待て、兵部!という叫び声を無視して、ヴヴン、と力を発動させる。
賢木のマンションの屋上へと移動して、部屋の様子をサイコメトリーで見ていく。
すると、もう慌てた様子のない女帝が透視えて、クスリと笑みが溢れた。
健闘を祈るよ、禁断の女帝。
もう一度力を発動させて、暗い闇へと身を溶かした。
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