「さぁ、昨日の浮気について説明してもらいましょうか」
夕方、俺の研究室。
紫穂は腕を組みソファに足を組んで座っていて、俺はその前に正座している。
「そういう紫穂だって、大好きな薫ちゃんとデートしてたじゃねぇか」
「私はいいのよ」
なんて理不尽!ジャイアニズム!「皆本と飲んでただけだって」
「それにしてはとぉーっても楽しそうだったみたいだけれど?」
「そりゃぁ、久々に二人での飲みだったから…」
「ハメを外ちゃってベッドイン?」
「してませんッ!何で俺が皆本と寝なきゃなんねぇんだよッ!」
「あら、だって先生溜まってるから。それに、大好きな皆本さんに迫られたら先生だって女になっちゃうんじゃない?」
「そんなことあるわけねぇだろッ!ていうか、紫穂サンの中で俺はネコなの?ねぇ?抱かれる側なのッ?」
ふぅん、どうかしら、とおもむろに立ち上がって、紫穂は俺を見下ろしてくる。
首を傾げてこちらを見てくる様は非常に様になっていて。
やっぱり、紫穂は女王様属性持ってるよな、と考えていると、考えが顔に出てるわよ、と指を差されて思わず顔を手で覆った。
「つーか、何でそんな機嫌悪いの?俺、なんかした?」
「強いて言うなら、先生じゃなくて皆本さんね?」
「皆本に何かされたのか?」
「私じゃないわ」
ふん、と鼻を鳴らして腕を組む紫穂は、すこぶる機嫌が悪そうで。
もしかして、もしかすると、昨日の薫ちゃんとのデートで、薫ちゃんから何か聞かされたんだろうか。
「あら、察しがいいじゃない。センセ」
ニッコリと笑ってはいるが、それはどっからどう見ても絶対零度の笑みで。
ぞわり、と背筋に寒気が走った。
「じゃあ、することはわかってるわよね?センセ」
こんなときだけ語尾にハートマークを付けるのは本当に止めてほしい。
「すみません、わかりません。」
「皆本さんの下半身、不能にするの、手伝ってくれる?」
これまたニッコリと、恐ろしい顔で恐ろしいことを言う。
震えながらも、何とか紫穂に向かって抗議する。
「そ、それは止めてあげてくれませんかね、紫穂サン?」
「…先生も知ってるんでしょう?皆本さんが薫ちゃんに何をしたか」
あ、俺、今死んだ。
紫穂に目線だけで殺された。
「…ハイ、知ってマス」
「じゃあ、異論はないわよね?」
「ハ…じゃなくて!こういうのは他人が絡むとややこしいからっ!二人に任せといた方がいいのッ!」
制裁は昨日俺が加えといたから!と紫穂を説得すると、渋々、といった様子でソファに座り直した。
「とにかく、皆本には俺からキツくお灸据えておいたから、それで勘弁してやってくれよ」
まだ納得がいかないという様子の紫穂を何とか宥めながら、俺も紫穂の隣に座る。
取り敢えず怒られないということは、隣に座ってもいいくらいには怒りは収まってきているようだ。
「皆本さんがあんな最低男だとは思わなかった!」
ぷんぷんという効果音を撒き散らしながら紫穂は文句を垂れている。
確かにそれには共感する部分もあるが、君らの場合は皆本を神格化し過ぎているのにも一因があると思う。
「まぁ、皆本もいっぱいいっぱいだったんだろうよ」
「…大人なのに?」
「この場合、大人かどうかは関係ねぇかなぁ…」
大人が皆スマートに生きてるワケじゃない。
大人だって、焦ってテンパってどうにもならなくなるときもある。
「もう、今ごろは仲直りしてまたいちゃついてんじゃねぇーの?」
アイツら、何だかんだで仲いいしさ、と紫穂に言うと、むすっとした顔でいじけだした。
「薫ちゃんのことだから、無条件で皆本さんのこと許しちゃうんだわ」
「そりゃあ、二人で乗り越えていかなきゃなんねぇし、それが愛の力ってもんじゃねぇの?」
紫穂の肩に手を延ばして、俺の身体にぽてりと凭れさせる。
抵抗しないのをいいことに、そのまま紫穂の肩を抱いた。
「親友取られたみたいで寂しいんだろ?」
「…そんなんじゃ…ないわよ」
「いいんだよ、寂しくて。でもさ、そんなことで消える絆じゃねぇだろ?」
チルドレンの絆はさ、と紫穂の頬にキスを落とす。
俺と皆本の絆だって、薫ちゃんとは違う、ちゃんと別のところで繋がっている。
「また何かあったときに、俺たちは一番にアイツらの相談に乗ってやれる場所にいればいいんだ」
紫穂の肩にぎゅっと力をいれて抱き寄せる。
紫穂はされるがまま、大人しく受け入れていて。
怒りはもう収まったのだろう。
「皆本と薫ちゃんは、ほっといたってうまくいくさ」
何てったって世界を変える運命背負ってたんだからな、と笑うと、紫穂も少しだけ笑ってそれもそうね、と呟いた。
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