思い出の味と彼女の涙 - 1/4

あーくそ。寒い。面倒くさい。
なんで俺が自分の食事を用意するのに苦労しなけりゃならねぇんだ。
それもこれもラギーがまだ戻ってこないのが悪い――まぁ帰ってこなくていいと言ったのは俺なんだが。
俺がこっちに戻ってくる前日に、おばあ様が腰を痛めたから戻るのが遅くなるとラギーから連絡があったのが二日前。即座に了承とおばあ様にお見舞いの返事をして、ギリギリまで傍にいてやれと伝えた。当たり前のこととしてそれをしたはいいが、だからと言って自分もギリギリまで城の世話になるという選択肢はない。自分は予定通りこちらへ戻ってきたまではよかった。身の回りの世話はラギーが戻ってくれば何とかなる。問題は食事だった。ラギーの代わりに戻っていた寮生に作らせていたものの、二日ともたず飽きた。毎度毎度ほぼメニューが同じって、正気か?
生憎食堂も年に僅かしかない休業日。自分の主義に反するが、仕方なくサムの店へ自分の食べるものを探しに出るしかなかった。何かしら食う物が出てくるだけ、実家にいた方がマシだったか……いや、何が入ってるかわかんねぇメシを食うより今の方がよっぽどマシだ。

「おい、サム。何か食う物見繕え」
「わぁお行儀が悪い!」

自分の食べるものも儘ならない現状に苛々して蹴破るようにドアを開ければ、草食動物と毛玉が店に入ったばかりの俺を呑気な顔で見つめていた。

「アァ?! なんか文句あんのか」
「わぁご機嫌も悪い。足癖も悪くてとても王子様とは思えないですねぇ」
「テメェ……平たく伸ばされてぇのか!」
「私を食べても美味しくないですよー」

フフ、と笑いながらサムに向き直った草食動物は、俺のことなんて最初から気にしちゃいないとでもいうように店のなかを物色しはじめた。いつもならあしらわれるだけなんて情けない終わり方はしない。ますます気分がムシャクシャしていくのを感じて、チッと大きく舌打ちした。

「……なんか……本当に機嫌悪そうなんだゾ……早く買い物終わらせて帰るのが良さそうだゾ……こういうときはそっとしておいてやった方がいいんだゾ」
「そうだね……よし! 今日はシチューにしよう!」
「ホントか! オレ様、子分が作るシチュー大好きなんだゾ!」
「ンフフ、グリム本当によく食べてくれるし、たくさん作っても余らないから私も嬉しいよ」

サムさんお会計お願いします! と草食動物はヘラヘラ笑いながら野菜と鶏肉の塊を手にレジに向かっている。草食動物と毛玉の会話に衝撃を受けつつ、慌ててその肩を掴んで引き留めた。

「オイ!」
「きゃっ……な、なにするんですか、私を食べても美味しくないですってば」

青ざめた顔で俺を見上げる草食動物は、相変わらず小鳥の雛みてぇになよなよと小さく握っただけで折れてしまいそうだ。そんなコイツが、まさか。

「オイ」
「だからさっきから何なんですか! さっきの発言は謝りますから不敬罪とか言わないでください、わ、わぁなんてチャーミングなお耳の素敵な王子様なんでしょう!」

白々しい媚で顔を引き攣らせている草食動物をジトリと値踏みするように睨み付けて、肩を掴んでいた手を離して威圧するように腕組みした。

「……お前、料理できんのか」
「……はへ?」

間抜けな顔を晒している草食動物にグルルと喉を鳴らして威嚇する。思い切り寄せた眉もそのままに、もう一度同じことを噛み砕いて問い掛けてやった。

「料理ができるのかと聞いている」
「り、りょうり……? りょうり、って、あの料理ですか?」
「……そうだ。それ以外に何がある」
「さぁ……?」
「……だから! お前は! 料理が! できるのかって聞いてんだ!」
「ひ、ひゃぁぁ、で、できます、できますよ! お料理くらいできます!」

ガオォッと地面が揺れるくらいに吠えてやれば、草食動物は面白いくらいに頭を守るようにして身を縮めてしまう。その様子に苛々していた気分も少し晴れたような気がしてフンと鼻を鳴らすと、ビクビクした目がこちらを見上げていた。本当に雛鳥みてぇだなと小さな身体を見つめていると、危険は去ったと察知したのか草食動物はキョロキョロと周囲に目配せしながら俺から一歩遠ざかった。その距離を詰めるように大きく一歩足を前に出すと、あっという間に草食動物は店の壁に追いやられて逃げることが叶わなくなる。あわあわと慌てる草食動物を追い詰めると俺は非常に気分がよくなるのを感じて、壁に手を突いてますます逃げられないようにしてやった。

「お前、俺に貸しがあったよナァ?」
「ひ、ひぇ……そ、その節は大変お世話になりました……」

草食動物が震えて俺を見上げる様は大変心地良い。か弱いクセに強かなコイツを力で支配している愉悦に浸りながら、ニィ、と目を細めた。

「……お前、これからウチで飯作れ」
「……へ?」

草食動物の怯えた顔が一瞬でキョトンとした間抜け面に変わる。すっとぼけた仔犬みたいな表情を浮かべた草食動物は、どうも自分が置かれた状況をいまいち理解できていないらしい。変に度胸があるくせにトロいのかのろまなのかよくわからねぇ奴だ。

「これからウチの寮に来て飯を振る舞え。寮生全員にだ」

もう一度丁寧に伝えてやると、目をまん丸にした草食動物は一瞬だけ考え込む。それから、困ったように眉を下げてポツリと呟いた。

「……お……お、お金がないので……無理です」
「は? 金?」
「だ、だって、寮生全員分のご飯でしょ? 私とグリムが食べていくだけでもギリギリのお金しかないのに、サバナクローの皆さんが満足できる材料費なんて……私には準備できません!」

ご存知の通り、オンボロ寮は貧乏なので! と付け加えた草食動物は、ぷるぷると震えて俺に噛み付いてくる。牙も生えていない小さな口で噛み付かれても痛くも何ともない、と呆れつつ、ハァァと深く溜め息を吐いて腕を組んだ。

「どうしてお前がウチの寮生の食料費の心配してやがる。金なら出すに決まってんだろうが。当然お前らの分も面倒見てやる。俺の舌を満足させられたら、その分の報酬も出してやるよ」

なんで俺がこんなひ弱な草食動物にたからなきゃなんねぇんだ。理解に苦しむ思考回路に顔を顰めていると、眉を寄せた草食動物が訝しげな顔でジロジロと俺を見上げた。

「……何か裏でもあるんです?」

見るからに俺を疑っていますという視線を草食動物は向けてくる。遠慮という言葉を知らないのかと言いたくなるその目付きにもう一度深く溜め息を吐いた。

「ンなモンねぇよ。貸しを返してもらおうかと思ってナァ」

ニヤリと笑って草食動物を威圧してやると、本当にその節は大変お世話になりました、と身を縮めて震え上がる。こうもわかりやすく怯えてもらえると揶揄い甲斐があって堪らない。圧倒的に上位であると存在を示せていることに悦を感じながら続ける。

「まさか断るなんて言わねぇよナァ? アレだけの貸しをたった一回の食事を用意するだけで返せるんだ。親切すぎて涙が出るくらい有り難い話じゃねぇか。むしろ感謝してこの話を受けるべきだよナァ」

お前に選択肢はないと言外に潜ませると、草食動物は正しく意味を感じ取ったのか、唸りながら渋い顔を浮かべて頷いた。

「……う……わ、わかりました。メニューはシチューでいいですか。今日はもうグリムとシチューにするって決めちゃったので」
「それはテメェの都合だろうが。シチューは明日しろ。今日の晩飯は肉料理だ」
「肉料理?」
「赤身の感じられる牛肉がいい」
「赤身……うーん……ローストビーフ、とか?」

首を傾げてメニューを想像している草食動物は、何てことのないように肉料理の名前を告げる。
日頃、ラギーが用意する食事には絶対に登場しないそれに思わず軽く目を見開いて尻尾を揺らした。

「お前……マスターシェフの履修をもう済ませたのか」
「えっ、まだですけど?」
「じゃあなんでそんな料理が作れる?」

俺の問い掛けに草食動物は何か変なことでもあるのかと言いたげな顔で俺を見つめてくる。なんで俺がそんな反応されなくちゃならないと苛立ちを隠さず噛み付こうとすると、今まで大人しく黙り込んでいた毛玉が、にゃは、と能天気な笑顔を浮かべて口を開いた。

「ユウはこう見えてめちゃくちゃ料理が上手いんだゾ! 同じ食材を使って毎日違う料理を作るんだゾ。味も見た目も違うから飽きないし毎日ご飯の時間が楽しみなんだゾ!」

まるで自分のことのように威張って言う毛玉に眉を寄せつつ、コイツの言い出したことは正しいのかと問うように草食動物へ視線を動かせば、草食動物はフフンと胸を張ってみせた。

「自分で言うのもなんですが、こう見えて料理の腕はなかなかのものなんですよ!」

エッヘン、と鼻高々に告げる草食動物は本当に料理に自信があるようだ。冷静な目で自分を評価しているのだとしても、そんなものは当てにならないし他人からの評価なんてクソみたいなものだ。実力が正しく評価されるなんて稀で、世の中はいつだって不平等にできている。

「自分じゃいくらでも過大評価はできるんだぜ?」
「それは確かにそうですけど……私の生まれ故郷では『ローストビーフを上手に焼ければ一人前』って言われてるんですよ。王子様のお気に召すかどうかはちょっとわからないですが、それなりのものはお出しできると思います!」

ニコリと満面の笑みを浮かべて言い切った草食動物に面喰らいつつ、そこまで言うなら、と半ば無理矢理納得してサムに肉の在庫を確認した。

「おい、サム。塊肉はあるか」
「もちろん!In stock nowさ」
「五キロ欲しい。いくらだ」
「ご、ごご五キロッ?!」

俺の横で素っ頓狂な声を上げて草食動物は目を見開いている。感情の起伏が本当に忙しない奴だな、と呆れていると、大して困ってもいない顔で肩を竦めたサムが賑やかに答えた。

「悪いねぇ、五キロの塊肉はさっきスカラビアの小鬼ちゃんたちが買っていったところなんだ。ニキロの塊肉三つで六キロならすぐにご用意できるよ」
「ならそれでいい」
「増えたッ!!!」

とっとと会計を済ませようと財布に手を伸ばすとわけのわからない叫び声を上げた草食動物が俺の腕を掴んだ。

「ちょ、ちょッ?! ま、待って! 待ってくださいッ!!!」
「アァッ?」

ひ弱なクセして全力で俺に刃向かおうとする草食動物が不快極まりなく威嚇するように喉を鳴らして吼える。それで諦めればいいものを、こちらが手を抜いて相手してやっていることもわからないらしい。恐れ知らずの草食動物サマは懲りもせず俺に再び噛み付いてくる。

「おお、お! 多い! 多いです! お肉多すぎます!」
「ハァ?」

お前何言ってるんだ? と奇怪なものを見る目で見下ろすと、明らかに動揺して取り乱している草食動物がそこに居た。コイツでもこんなに狼狽えることがあるんだなと関心していると、草食動物はわなわなと震える唇を動かして俺に再び噛み付いた。

「ご、五キロでも! びっくりするくらい多いのに、ろろ、六キロ? 六キロ! 六キロですよ! どう考えても多すぎです!」

あわあわ、という表現がぴったりな身振り手振りをして草食動物は頓珍漢な内容を必死に訴えてくる。
何をそんなに慌てる必要があるのか、と思いつつ、とにかく六キロの塊肉は多いと伝えたいのだろうと受け取ってサムに問い掛けた。

「サム。六キロは多いのか」

マジフトの打ち上げで使うバーベキューの肉はもっと多かったはずだ。買い出しは部員とラギーに任せているから詳しい数値まではわからないが、サムが出してきた肉のブロックより多かったし支払明細に書かれた数値も多かったと記憶している。ただ、俺の常識は当てにならないとよく言われるから、よくも悪くも平均を理解しているサムに聞くのは妥当だろう。

「どうだろうね? 充分な量かな。もし余れば冷凍してもいいしね」
「……少なく見積っても一人五〇〇グラムは消費する。今、寮に戻ってるのは七人だ。単純計算して三五〇〇。これから戻ってくる奴とアイツらが多めに消費する可能性も見積もれば五キロも六キロも妥当な数値だと思うが……?」

違うのか? とサムに改めて確認すると、サムは困ったように頷いて妥当かなと答えた。

「……獣人属の男の人ってそんなに食べるんだ」

はわぁ、と木の実を落としたシマリスみたいな顔で草食動物は俺をまじまじと見上げてくる。惚けた顔を曝しやがって、何をそんなに不思議がることがあるのか、ここは男子校だぞと心のなかで溢してから、そういえばコイツは女だったなと思い出した。

「……別に獣人属だけじゃねぇだろ。このくらいの年頃の男はそんくらい平気で喰うぜ」
「そっか……そうなんだ……」

じゃあこの分量でも妥当、なのかも? と妙に納得した顔で頷いた草食動物は、三等分された六キロの塊肉を見つめた。それにしても大きいな、切り分ければ何とか調理できるかも、とぶつぶつ呟き始めた草食動物を他所に、会計を済ませようと再び財布を手に取る。やれやれやっと寮に戻れる、と取り出したマドルをカウンターへ置く直前、草食動物が勢い良く挙手をして無駄に元気な声を上げた。

「あっ、サムさん! 玉葱とセロリ、あと葉の付いた人参も買います! えっと……分量が五〇〇グラムの十二倍だから……玉葱が四キロにセロリは六束、人参は二キロくらい?」

全然分量のイメージができない! と叫びながら草食動物はサムと相談しつつ野菜の注文をし始める。そのことに何の疑問も持たず、それならこの分量で足りるんじゃないかい、と野菜をカウンターに並べ始めたサムにぎょっと目を見開いた。

「なんで肉料理に草がいる! おい、サム! 用意するんじゃねぇ!!!」
「香味野菜って知らないんですか! ないと絶対ダメです!!!」
「知るか! 野菜は要らねぇ! 俺は肉が喰いたいんだ!」
「だから! ローストビーフを作るためには香味野菜も必要なんですってば!」

そんな巫山戯たことがあってたまるかとサムに助けを求めると、サムは困ったように笑って残念だけれど小鬼ちゃんの言うとおりだよ、と肩を竦めた。

「嘘だろ……」
「嘘じゃないです。こんなことで嘘吐いたって私には何の利益にもなりませんから。レオナ先輩のだーいすきなあのお肉もこのお肉も香味野菜が使われているんじゃないですか」

俺を雑に遇った草食動物は、じゃあこのお野菜全部お願いします! と勝手に会計を済ませて購入したものをどんどん木箱へ詰め込んでいく。

「お、おい。シェフが焼いたステーキにも香味野菜が使われてるなんて言わねぇよな」
「当たり前じゃないですか。ステーキはシェフでも素人でも塩を振ったあとに焼くだけですよ」

至極当然のことと呆れたように言われてハッとする。どうも俺はこの豪胆な女の手玉に取られたらしい。チッと思い切り舌打ちをして、草食動物が重そうに抱えた箱を奪い取った。

「テメェみたいなか細い腕にこんな重いモン運ばせるわけねぇだろ」

どけ、と草食動物を押し遣ってから箱全体の空間を固定して浮遊魔法を掛ける。これで宙を浮かせたまま荷物を運んでも中身が零れ落ちることはない。仕上げに自分に付帯して進むよう魔法を掛けてしまえば寮生を呼び出さなくていい。

「わぁ、本当に魔法って便利ですねぇ」

グリムも今度からこれやってよ、と草食動物は呑気に毛玉に声を掛けている。コイツは恐らくまだ魔法について理解しきれていないんだろう。だからこそ軽々しく毛玉にやってみせろと言っている。言われた方の毛玉は目を白黒させているあたり、自分の力量というものがわかってきているのかもしれない。

「……浮遊魔法は、単純に物理法則を無視したり凌駕すりゃあイイってもんじゃない。確かに魔法を扱うはイマジネーションの占める割合は大きいが、実際は物質に働く力や物質の事象に対してイメージを作用させるために魔法を掛けている。そしてそのイメージを助けるのが物理学であったり魔法学以外の領域だ。そこが伴っていないとイメージはイメージの領域を超えることができないから、実際の魔法も上手く作用しない。一年坊主の飛行術にムラがあるのはそこを理解してる奴としてない奴との差だな。空を飛ぶってのはイメージできても空を飛ぶには浮上、力の維持、前進運動、方向転換、諸々それら全て作用したイメージが必要だからな……まぁ稀に例外がいて感覚でやってのける奴もいるが……あれは一種の才能と言っていい」

颯爽と空を飛ぶエペルの姿を思い浮かべながら淡々と解説を終える。顔をしわくちゃにしてげんなりとしている毛玉とは正反対に、草食動物は俺の話を理解できたのか目を輝かせて惚けたように口を開いていた。

「すごい……とってもわかりやすい……」
「……そりゃどうも」
「今までわからなくて理解できなかったところが一気に解決しそうな気がします!」
「……へぇ」
「魔法なんて夢みたいって思ってましたけど、思っていたより現実的な技術なんですね。使えないしできないから理解できないんじゃなかったんだ」
「あー……お前のいた世界でも、さすがに物理学くらいはあった、よな?」
「ありましたよ。いろいろな学問がありました。その知識を活かせるなら、今まで躓いていたことも何とかなるかも」

ふふ、と何が嬉しいのか笑顔を浮かべている草食動物は、まぁでも理解したからって魔法は使えないんですけどね、と苦笑いした。

「おっ、オレ様は別にそんなに難しく考えなくても、ドカーン、ばびゅーん、ってな感じで飛べるんだゾ!」
「そっか……だから上手く飛べてないのね……」

ふ、ふなぁっ! と目を白くした毛玉はそれ以上法螺を吹くことを諦めたのか、草食動物の肩に乗ったままぐったりと項垂れた。とことこと足の遅い草食動物に合わせてだらだらと鏡舎へ向かって歩く。いっそ箒で飛ぶか? と思いあぐねていたところで草食動物がそう言えば、と俺に話しかけてきた。

「レオナ先輩って自炊しないんですか?」

自分の問い掛けには当然答えが貰えると信じて疑わないのか、草食動物はじっと俺を見つめたまま歩いている。その視線にウンザリしつつ、ハァァァァ、と深く溜め息を吐いて重たい口を開いた。

「……面倒くせぇ」

この『面倒くさい』に込められた意味はどっちなんだろうな。
そこを正しく読み取ってほしいところだが、両方と受け取ったのか、はたまた片方の意味については敢えて見ないフリをしているのか、尊大な草食動物サマはヘラヘラ笑って会話を続けてくる。

「じゃあ普段のお食事はどうしてるんですか? 今は食堂が閉まっているからサムさんのお店に来たんですよね? サバナクローの食堂も閉まってるんですか?」

質問が多いことにチッと舌打ちを返す。放っておいたらもっと質問は増えそうだ。げんなりした気分を隠すこともなく再び溜め息を吐いて仕方なしに応対した。

「普段は全部ラギーか寮生に任せてある。今日はまだラギーが戻ってねぇ。寮生の飯は飽きた」

必要最小限の回答を必要最小限の労力で返す。草食動物が知りたいであろう内容はこれで充分足りるはずだ。その読みは当たったのか、草食動物は目をぱちぱちと瞬きさせてふぅーんと頷いた。

「作ってくれる人がいるって幸せですねぇ」

のほほんとそう言い放った草食動物にぴくりと眉が釣り上がる。

「……厭味か?」

いい度胸じゃねえか。
ぴんと耳が立つのを感じながら歩みを止めると、草食動物はふわりと笑って振り返った。

「違います。純粋に羨ましいなって」

本当にただそれだけですよ、と微笑んで再び草食動物は鏡舎へ向かって歩き始めた。
青いリボンと淡い金の毛先が目の前で軽快に揺れる。
それが、本当にそれ以上の含みはないと言っているようで妙にざわついた感情を覚えた。

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2件のコメント

めりか

わあいムラコさんのレオ監ちゃんだ〜🥰🥰🥰とウキウキしながら読み始めましたが、そうだったこれは「ムラコさん」の「レオ監」ちゃんだ───…!!と思い出しました。もちろん良い意味でですよ!!!
相変わらずムラコさんの魔法に対する解像度が高すぎて背景が宇宙になりかけましたが、私のようなものにも伝わるさすがの語彙…よくよく伝わりました!
たった一言「ご飯作って」を言うまでの時間も、食材を買っている時間も、作っている時間も全てが尊くてこの顔☺️で読んでいました。サバナ寮生たちの監督生に対する態度も素敵で、良いなぁ、かわいいなぁ!と思いました!
監督生さんのご両親のことが明かされて謝罪するところも、監督生さんを儚くて尊いと思いながらもその内にある芯の強さも分かっているレオナさんの心情が、今回がレオナさん視点で描かれているのも相まって素晴らしかったです。(感想を伝えるための語彙が無さすぎる。。)
…そして、このお話にまだ続きがあるんですか……?もしかしてムラコさんって神様でいらっしゃる…??新刊心から楽しみにしております🥳いつも心救済(たす)かる素敵な作品をありがとうございます〜!!!!

返信
ムラコ

わあい💕めりかさんお読みくださりありがとうございます~!!!
そうです、【弊学舎】のレオ監ちゃんです~www捏造盛り盛りwwwww
魔法の解像度は絶チルの超能力の仕組みとか、魔法科の魔法とかをめちゃくちゃ参考にしてますー!
お肉食べたい、とフォークとナイフを持って待ってる(語弊)レオナ殿下は尊いですね😊
今回時系列的には一番始めのお話で、全力でレオナ殿下の情緒を揺さぶっていったので、受け入れていただけて本当に嬉しいです~😂
弊学舎の殿下は二〇歳児()なので…こんなんレオナ先輩じゃない!!!って言われるかもなー、でも弊学舎の殿下はこうなんだよ!!!!!と元気よくお読みくださる方々に殴りかかってみました💕www
WEB版はCパートとオマケの部分が丸々カットされているので、是非新刊に収録している部分の展開も楽しんでいただけると嬉しいです!!!
こちらこそ、いつも読んでくださりありがとうございます~!!!!!

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