「皆本……お前ホントよく飽きもせず毎日毎日野郎の顔を見に通えるな……」
あれから。僕は毎日と言っていいほど賢木さんに会っていた。キャンパスで賢木さんの姿を見つけては時間の許す限り話をしたり。僕と賢木さんのアパートが徒歩圏内の距離であることがわかってからは、一緒に大学へ向かうべく彼の家に押し掛けてみたり。僕は、ようやく知り合うことができた賢木修二そのものに、全欲求を注いでいると言ってもいいくらい、賢木さんへ絡みに行っていた。
「たまには女の子と遊びたいとかねぇのかよ……」
うんざりした顔で僕を部屋に招き入れた賢木さんの後を追いかけながら、大学で使う資料の入った鞄を抱え直す。
「何度も言っているでしょう? 僕はずっとあなたと知り合いになりたかったんだ。こうして話が出来る仲になれてとても嬉しいんですよ」
いつも通り素直に喜びを表現すると、賢木さんは何とも言えない顔をして、ぽりぽりと頬を掻く。
「……お前、他に友達いそうなのに、ひょっとして……ボッチ?」
「……まぁ、変わってるとよく言われるので……あまり、友人は居ませんね」
「だろうな」
そう言って笑う賢木さんに、僕も笑い返して言ってやる。
「そういう賢木さんだって、友達いないじゃないですか!」
そう指摘してやると、ペットボトルの水を飲んでいた賢木さんはゴホゴホと咳き込んだ。
「俺は! 超能力のせいで! 人が寄ってこねぇの!!!」
お前と一緒にすんな! と賢木さんは僕に向かって叫ぶ。
確かに、賢木さんの人柄は、知れば知るほど人に好かれるキャラクターで。僕なんかと違って、本来であれば人の中心にいるような人物だ。それが、優秀な賢木さんへの嫉妬ややっかみ、それから彼の持つ超能力のせいで、全く彼のパーソナリティーが活かされていない。そんな今の状況が、僕はとても悔しかった。
大学に行く準備を整えた賢木さんと一緒に、彼の部屋を出る。バスに乗って、大学近くの駅で降りて、校舎までの道程を歩いていく。その間、僕は賢木さんにいろいろな質問を投げかける。彼が何に興味を持っているのか。何を考えて行動しているのか。何が彼を動かしているのか。その全てが知りたくて、拒絶されないのをいいことに、とにかく彼から話題を引き出した。
あっという間にキャンパス内のいつもの分かれ道に着いてしまう。まだまだ話したいことがあるのに、という物足りない気持ちを抱えたまま、賢木さんと別れる。いつも通り賢木さんの背中を見送って、僕も校舎へ向かおうとすると、賢木さんが振り返って声を掛けてきた。
「皆本! 今日も昼メシ一緒に食うのか?」
「……ッ! はいっ!」
「じゃあ、いつものカフェテリアでな!」
そう言って、賢木さんは手を振って歩いていく。僕もそれに手を振り返して、賢木さんの背中が見えなくなるまでそこに立ち尽くしていた。
またお昼に賢木さんに会える。
ただ、それだけのことなのに、僕はとても嬉しくて、ふわふわとした気持ちを抱えたまま、校舎へと歩き出した。
そう、これはたとえばの話。 - 5/22
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