そう、これはたとえばの話。 - 12/22

「こんばんは?」
名前も知らない女の子の元を訪ねてインターホンを鳴らす。もう大人と言っていい年齢に達している自分たちなのだから、他人にとやかく言われようと後ろ暗いことさえなければ自由にセックスを楽しんでいいはずだ。
「本当にアレで私の家がわかるのね?」
「そりゃ当然。だから君は俺に興味を持ったんだろ?」
「……まぁそうね。いいわ、入って」
ガチャリ、と鍵が開く音がして、アパートメントの重い扉を、音を立てながら開く。部屋番号を頼りに部屋の前まで辿り着くと、ふ、と息を吐いてからコンコンとドアをノックした。するとすぐに扉が開いて、中から昼間に会ったあの女の子が顔を覗かせた。
「いらっしゃい。入って」
「どーも。お邪魔します」
女の子に導かれて部屋に入ると、いかにも女の子らしい内装に整えられたリビングに通された。掃除も行き届いていて綺麗に片付けられている。少し狭いけれど、部屋の中が整えられているからあまり狭さが気にならない。この間取りからいくと寝室はあの扉の向こうだろうな、と考えていると女の子がこちらに振り返って言った。
「シャワー浴びるわよね?」
タオル用意してあるわ、と淡々とした女の子の様子に、フ、と口元だけで笑って返す。
「ありがとう。借りていい?」
シャワールームはあっちよ、と指差した女の子にもう一度ありがとうと声を掛ける。
俺たちは付き合っているわけじゃない。彼女の見た目からは想像できない整えられた部屋を褒める必要もないし、晩ご飯は食べた? とか、会いたかった、だとかの甘い言葉の遣り取りも要らない。
ただヤるだけ。それで充分。
アパートメントらしい人一人分くらいの広さしかないシャワールームで身体を綺麗に洗い流して、女の子が用意してくれた清潔なバスタオルで水分を拭き取る。下だけ身に着けて髪を拭きながら部屋へ戻ると、下着の上にパーカーだけを羽織った女の子がソファに座って待っていた。
「お待たせ?」
にこりと笑いかけながらそっと近づくと、女の子も笑って立ち上がる。何も言わない女の子にそのまま着いていくと、やはりさっき予想した通りの扉を開いて俺を寝室へ誘導した。
薄暗い部屋の中で肩からパーカーを落とした女の子の白い肌が浮かび上がる。振り返って差し出された手に触れてしまえば、もう後は溺れてしまえばいい。望んでいること、本人も知らないようなこと、いろんなことを透視(よ)み取って、俺の役割に徹するだけ。
引かれた手に答える前に、そっと腰を抱き寄せて優しくベッドに押し倒す。両手を掴んでマウントを取れば、驚いたように目を見開いた女の子が白い頬をピンクに染めた。
「……君のお望みのままに」
優しく微笑んで、額にキスを落とす。唇は望んでいない。見た目によらず可愛らしい純情の持ち主だ。初心ではないけれど、守りたい一線があるらしい。そのくせ、本人は気付いていないけどほんの少しMっ気をお持ちのようで。透視(よ)み取れば透視(よ)み取るほど、俺に優しくイジメられているイメージが透視(み)えてくる。彼女の望むまま、フェザータッチでそろりと身体に触れて、性感を刺激してあげる。オマケに甘く優しく微笑めば、女の子は途端にトロリと蕩けた顔で、ほぅ、と感嘆にも似た溜め息を吐いた。包むように頬を撫でてから、下着の上からそっと胸に触れる。柔らかい感触を楽しみながらタイミングを見計らって時折形を変えるように強めに力を籠めれば、女の子は簡単に息が上がった。
「あっ、イイ……ね、直接触って」
「ん、いいよ」
背中を浮かせた女の子の背中を撫ぜながら、片手でホックを外してしまう。ふるりと柔らかそうな胸が解放された。ツンと主張している先端を舐めるように見つめながら、黒のレースで彩られたブラを取り去る。思惑通り、女の子は恥ずかしそうに身を捩ってみせる。そんな女の子を安心させるように微笑みかけて、できるだけ声のトーンを低くして耳元で囁きかけた。
「今すぐ触ってほしいクセに。カワイイね」
ビクリと震えた女の子に笑いかけながら、先端を指先で摘む。最初は優しく、じわじわと力を強くして次第に捏ねるように。
「あっ、っはぁん、アッ」
女の子の手が切なげに俺の髪をかき混ぜて身悶える。
手に取るようにわかる、なんて言葉を生み出した先人は本当にいい言葉を生み出してくれたと思う。だって今の俺の為にあるような言葉だ。次に彼女がしてほしいコトが、正しく手に取るように透視(わ)かる。痛いのとキモチいいのの瀬戸際みたいな絶妙な力加減で先端を摘まみながら引っ張る。甲高い声を上げた女の子に笑いかけながら、少しだけ力を痛いの方に振り切れさせた。眉を寄せた切ない目に見つめ返されて、ふわりと微笑んで一切の刺激を止めて抱き寄せながら頭を撫でてあげる。
「気持ちよかった?」
はぁはぁと息を整えている女の子の背中を宥めるように抱き寄せれば、女の子はきゅっと身を寄せて俺の肩に額を摺り寄せながら、はぁー、と深く息を吐いた。
「……スゴイわ。想像してた以上、ね」
仮初めとはいえ、身を寄せて甘えてくる女の子は可愛い。今だけ、一時だけだと自分に言い聞かせながら、甘いかおりのする女の子を強すぎない力で優しく抱き締める。
自分よりも小さくて、細っこくて、柔らかくて、ふわふわした、守ってあげたくなるような、そんな存在。どちらかというとフェミニストだという自覚はあるけれど、女性を下に見ているつもりはない。ただ、自分にはない、とにかく甘くてふわふわしたものをくれて、一時的だとしてもその柔らかいもので俺を包んでくれる、たおやかな存在。俺だけを見てくれることはなくても、俺はたくさんの彼女たちに甘えている。
「ねぇ、もっと気持ちよくしてくれるんでしょう?」
そう言って、期待した目を向けながら俺の下半身に手を伸ばす女の子に、にこりと笑いかける。
「もちろん」
ベルトを寛げて俺のモノに下着の上から手を這わせている女の子に合わせて、背中に回していた手を次第に下へ下へと這わせていく。丸くて柔らかいお尻をひと撫でして、鷲掴みにする。アン、と甘い声を上げた女の子の首筋を舐め上げて、そのまま下着をずらすように下着の中に指を這わせる。俺の下着の中に手を入れて丁寧に撫で上げてくれている女の子の額にキスをして、もうしっかりと濡れている割れ目を指で開いた。陰核を指で潰しながらナカを探るように指を突き入れる。少しだけ乱暴に、でもその中に優しさも含ませて。
「アッ、ねぇッ、もう来てっ」
「ん、わかった」
はっはっ、と短く息をする女の子を慰めるように額にキスをしながら、服をずらしてポケットから避妊具を取り出す。手早く準備を済ませていくと女の子は自分で下着を脱いでベッドの下に落とした。その手を取って再びマウントを取る。濡れたソコに自分のモノを押し当てながら、焦らすように腰を動かすと早く次の刺激が欲しい女の子は腰をくねらせて俺に強請った。
「ねぇ、はやくっ」
「えー、どうしようかな」
くちくちと濡れた音を立てて、穴の前後を刺激すると、堪らないといった様子で女の子は震えながら声を上げた。
「お願い! もう欲しいのッ、はやく入れてぇ!」
「よくできました」
にやりと笑って奥まで一気に突き立てる。
「あぁッ! すごっ、最高ッ!」
ぎゅう、と女の子が締め付けてくる。持っていかれそうになるのを何とか奥歯を噛み締めながら持ち堪えて、細く息を吐く。
全て計算の上。女の子の望む、理想のセックス。
頭の中で考えている、こうしてほしい、ああしてほしいを全部透視(よ)み取ってあげて、強さ、感触、言葉、タイミング、それら全て女の子の欲望のまま、動いてあげる。
今日の子は焦らしたり恥ずかしいコトを言わせたり、被虐心を擽ってあげるのがイイらしい。軽くイって身悶えている女の子の様子を見計らいながら、更にもうひと突きしてやると、俺の身体に絡むようにしなやかな足を俺の腰に絡めてくる。
「アッ! 最高っ、もっと! もっと頂戴ッ」
求められるまま、女の子のキモチいいトコロを攻め立てた。ペロリと舌舐りをして女の子の手を引いて身体を起こす。挿れたままの状態で女の子の身体を抱え上げて膝の上を跨がせた。そのまま腰を掴んで下から勢いよく突き上げる。
「あぁッ! イイッ! いいわッ、最高ッ」
首に絡み付いてくる細い腕が俺の背中に回って爪を立てる。ぷつりと嫌な音がして、皮膚に穴が空いたことを悟った。多少痛くても、キモチいいコトを共有させてもらっているんだから文句は言えない。痛みを我慢して腰を動かせばきゅうきゅうと締め付けてきて、体感でも透視でも終わりが近いことが伝わってくる。
女の子に余裕を与えないようにガツガツと抉るようにキモチいいトコロを突いてやれば、俺の肩に歯を立ててあっけなくイってしまった。キツすぎるくらいのナカの収縮に合わせて自分も精を吐き出す。どくどくと脈打つソレに合わせて女の子がふるふると身体を震わせた。
落ち着かせるように優しく背中を撫でてあげると、甘えるように抱き寄せられて、きゅっと胸がざわめいた。息が落ち着いてきた女の子をそっとベッドに横たわらせる。ゆっくり身体を離して息を整えながら、自分の後始末を済ませてしまう。ゴムを縛ってティッシュに包んでからベッドに寝そべっている女の子に声を掛けた。
「これ、ここに捨てていい?」
寝室に置かれた小さなダストボックスを指差すと、女の子は頷くだけで返事をした。それを確認してからティッシュを放り投げて、下着とズボンの前を整える。女の子に上掛けを掛けてあげながら、うとうとしている女の子の額にキスをした。
「……泊まらないの?」
掠れた声で問いかけてくる女の子に、ふわりと優しく微笑みかける。
「泊まっていいの?」
「もう遅いし……泊まっていけば?」
「……ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
もそ、とベッドの片側に身体を寄せた女の子の額にもう一度キスをして、上掛けを捲る。空いた隙間に脚を滑り込ませて身体を横たえると、ぴとりと女の子が俺の胸板に甘えてきて。
「気持ちよかったわ。ありがとう」
まだ少し掠れた声で小さく呟いた。そんな可愛い仕草が愛おしくて、細い腰を抱き寄せながら小さな頭に顔を埋めた。
「……こちらこそ。満足できたなら良かった」
今だけ。今だけはこの柔らかな空間に包まれていられる。
今だけの幻想だとしても、ふわふわと甘くて心地良いこの空気に身を任せていられるなら、それで良かった。お互いの人肌のあたたかさを分けあって眠る。それがどれだけ堪らないものかなんて、きっと俺以外にわかってくれるヤツなんていない。すやすやと寝息を立て始めた女の子をもう一度ぎゅっと抱き締めて、おやすみと小さく呟いてから目を閉じる。気持ちよさそうに眠っている女の子の微睡みを感じ取りながら、混じり合うようにぼやけてきた自分の意識を手放した。

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