親友(というには近過ぎる距離感) - 2/2

 ふわふわと心地よく、一番気持ちいい程合いにお酒が回っている。
 皆本と二人、仕事が終わってから買い出しをして、俺の家で気兼ねなく呑んでいた。肩肘張らない関係なのを良いことに、行儀悪くリビングテーブルに食べ物と買ってきた酒を並べて、俺はもうだらしなくカーペットの上に胡坐を掻いて、ソファに凭れかかりながらチビチビとウイスキーを舐めていた。
 ふわふわとして、本当に気持ちがいい。皆本と呑むと、いろいろ気を遣わなくていいから本当に楽だ。しかもここは俺の家。このまま潰れたって許される。オンナノコの前じゃこうはいかない。最後まで気を張ってなきゃいけないし、呑み過ぎてダメになるなんてカッコ悪いトコは見せられない。とにかく、皆本と呑むのは楽だった。
 ズル、とだらしなく座ったままリビングテーブルの上に乗ったおつまみに手を伸ばそうとすると、ソファに座っていた皆本の膝に俺の肩がぶつかった。あ、わりぃ、と申し訳程度に呟いてウイスキーの入ったグラスをテーブルに置いてから、身体を起こしてチョコレートを口に放り込む。ほろりととろける甘い香りに頬を緩めながら、もう一度ウイスキーを口に含んだ。ウイスキーのグラスを床に置いて、その心地よい雰囲気に身を落とすようにソファに勢いよく凭れると、今度は皆本の足が俺の腕に触れて。気持ちいい心持ちに任せてそのままこてりと皆本の膝に頭を乗せた。はー、と酒精の籠った息を吐いて、うっとりと目を閉じる。皆本の膝に凭れかかるように身体を預けて、すり、と頬を寄せる。何も言ってこないのに甘えて皆本に触れていたら、後頭部の形を辿るように指がさわさわと這っていって、ゆるゆると俺の髪を掻き分ける感触にぞわりと背筋が震えた。

「んぁ……皆本……?」
「もう酔ったのか?」

 前かがみになって俺の顔を覗き込んできた皆本とぱちりと目が合う。俺の様子を探るようなその目線にどきりとして、誤魔化すように曖昧に笑った。

「酔ってんのかな? でも、気持ちいい具合に酒が入ってるのは確かだ」

 ふわふわとはしているが、呂律が回っていないわけでもなく、しっかり喋れている。酔っていないとは言い難いが、気持ちよくはなっている。そんなことをふわふわした頭で考えていたら、皆本がリビングテーブルにワインの入ったグラスを置いた。つまみでも取るのかな、と皆本の膝に預けていた頭を持ち上げようとすると、そっと、でも力のこもった手の平が俺の頬に触れた。皆本の指が俺の頬を撫でるように這わされて、ぞくぞくと毛が逆立つような感触に襲われる。

「……え? なに、皆本」

 どこか落ち着かない感覚を落ち着けるように不安げに皆本を見つめると、皆本はにこりと笑って俺を見つめた。その様子にほっとして肩に入っていた力を抜くと、俺の頬を撫でていた親指が俺の唇の感触を確かめるように押し付けられる。ふにふにと弄ばれるように指を押し付けられて、思わず唇を引き結んでいると、優しく顎を持ち上げられて、皆本がそっと耳元で囁いた。

「口、開けて。賢木」
「……え?」
「いいから。早く」

 皆本の、優しいのに有無を言わせない雰囲気に呑まれてしまって、ゆるゆると口を開いてみせると、いいこだね、と笑った皆本が、俺の口に空いた方の手の中指を突っ込んできた。

「んぶ……んんぅ……みな、もひょ……?」

 突っ込まれたものの歯を立てるわけにはいかないと、口の中でもごもごしながら皆本の指を受け入れる。一体何がどうして、皆本の指を銜え込んでいるんだ? と思いながら皆本を見つめると、にこりと笑った皆本が俺の口の中を撫で回すように指を折り曲げた。皆本の指を噛んでしまわないように口を開いて、俺の舌やら腔内を好き放題押してくる指を何とか押し返そうと舌を動かした。

「ンン……やめ……」
「気持ちよくなってきた?」
「んあッ!? んなわけ……」

 あるわけない、と言おうとして、口の中に感じる皆本の体温に言い様のない快感を覚えて腰が震えた。零れてしまいそうな涎を押さえる為に思わず唇を閉じる。意図せず皆本の指に吸い付いてしまうような形になってぞくぞくした。ちゅう、と音を立てて皆本の指を吸いながら涎を飲み込む。一体自分は何をさせられているんだと思いながらも、皆本の好きにされている感覚が得も言われぬ快感を呼び起こしてくらくらと理性を溶かしていった。

「……動かすよ?」
「んっ、んぶッ……んんっ……ふぅッ」

 じゅぷじゅぷと急に遠慮なく指を出し入れされて息が苦しいのに、止めろと言えず、それどころか皆本の行為を必死に受け止めるように目を閉じて皆本の指に吸い付くことに集中した。唇の端から溢れた唾液が伝っていく感触に、まるで、口の中を犯されてるみたいだ、とぼんやり思った。

「ふふ……顔、真っ赤だよ。賢木」

 うるせぇ、と言い返したくても、今は状況が許してくれない。時折強く舌を押すように指を曲げられて嘔吐反射が出そうになるのを何とか堪えながら仕返しのように皆本の指に舌を絡める。部屋に響く水音と、必死になって皆本の指に吸い付いているその行為。ぼんやりした頭がやっと廻り出して、それを認識する。
 こんなの、まるで、皆本のを、フェラチオしてるみたいじゃねぇか。
 トロトロに蕩け切った頭がそんな答えを弾き出して、皆本がどういうつもりなのか確認しようとうっすらと目を開くと、雄の目をした皆本がこちらを見ていて。そのあまりにも官能的な表情に、最後に残っていた理性が溶けていくのを感じた。

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