「諦めるつもりか。ハッ、情けないな」
賢木が僕に向かって告げる。ゆっくり振り向くと、苦しそうに眉を寄せて、俺を見つめる賢木と目が合って。
「お前にはもう、薫ちゃんしかいねぇだろ。わかってるくせに」
賢木の指摘に、どきり、とした。賢木からそらされた視線は、苦しげで、でも諦めみたいなものが混じってて。思わず賢木に手を伸ばした。肩を震わせた賢木は、達観したように穏やかに笑ってみせて、言った。
「お前が掴むべき手は俺じゃないだろ」
そう言って、賢木は俺の手をゆっくりほどいていく。その表情はもう、静かなものになっていて。
「俺はお前が大事だよ。でも、お前の大事は俺じゃない」
最後にぎゅっと僕の手を掴んでから、賢木は僕の肩を叩いた。
「はやく、迎えに行ってやれ」
僕に背中を向けた賢木に、僕は何もできなかった。
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