だって夏だもん

先生と一緒に夏祭り。とびきり可愛い彼女って自慢できるくらいにならなきゃと、浴衣から髪飾りから何から何まで一式、一生懸命選んで買い物をして。先生に可愛いって言われたい一心で今日の日まで準備を進めてきた。何着てたって先生は可愛いって言ってくれるけど、やっぱり心から可愛いって思ってほしくて、可愛いって言ってくれた時の先生の手のひらをそっと掴んで透視み取ってみたり。その行動は読まれてて、いつだって可愛いよって思念で伝えられたりして、悔しくなったり。先生の隣に並んでても子どもっぽく見えないようにとか、他の女たちに私の彼氏よって牽制を掛けたりとか、こっちは必死なのに。にへっと笑ってる先生を見てるとどうでも良くなってくるんだけど。
カラコロと下駄を鳴らしながら、先生の腕に手を絡めて出店の間を歩いていく。そのなかに、ふと、金魚すくいの出店を見つけて。

「ね、センセ。久々に勝負しない?」
「お、いいぜ!負けた方は勝った方の言うこと何でも聞くことな!」

ノリノリで私の誘いに乗ってきた先生を、金魚すくいの屋台へと誘う。

「一匹でも多くすくえた方が勝ちね。出目金は?」
「出目金もカウント1だろ。俺らサイコメトラーだぜ?」

総ざらえになっちまう、と自信満々の先生に、ふふん、と鼻で笑った。

「レベルは私の方が上なのよ?先生が勝てると思って?」
「こういうのは経験値も活きてくるからなぁ。ガキの頃散々やった俺の腕舐めんな?」

二人で牽制しあいながら、屋台のおじさんからポイを受け取る。キュン、と二人でポイを透視み取ると、六号のポイ。あまり良心的なおじさんではないみたい。それでも私たちにかかれば何てことはない。ポイの表面をお互いにチェックしてハンデがないことを確認する。よし、と二人で水槽に向かってしゃがみこんだ。

「時間制限つけるか?」
「一度でいいから金魚すくいの水槽を空にしてみたかったのよね」

先生は私の言葉にははっと軽く笑ってから、了解、と答えた。二人で目を合わせて、声を上げずにスタートの合図を送り合う。ポイを水にそっと沈ませて、キィンと力を発動させてみると、何かがおかしいことに気付いた。あれ?と思って、金魚にポイを近付けて掬い上げるととびちびちと暴れる金魚と一緒に掬い上げてしまった水の圧で、ポイが全壊してしまった。

「うそ…」

まさかの展開にバッと顔を上げて先生の方を見ると、どうやら先生も同じ状況のようで。愕然とした表情で水槽を見つめている。

「…すまんな、兄ちゃんら。こっちも商売上がったりなもんで、ECMつけさせて貰っとるよ」

屋台のおじさんが、ビシッと屋台の垂れ幕を指差すと、そこには『超能力禁止!公正な金魚すくい屋』の文字。デカデカと書かれているのに、全く気付かなかった。きっと、夢中になって、二人の世界に入り込んでいたから。

「…そりゃそうだわ。当たり前のことに気付かなかった俺らが悪い」

仕方ない、と言った様子で笑う先生。そりゃそうなんだけど。勝つ気満々で挑んだ勝負がお破算になってしまったことだとか、超能力なんてなくても一匹くらい掬えると思ってたとか、そんな状況を素直に先生は受け入れられる大人で悔しいとか、いろんな思いがない交ぜになってしまって、本当に悔しい。ぷぅ、と頬を膨らませて不貞腐れていると、屋台のおじさんがゴソゴソと袋を取り出して小さな金魚一匹と新しい水を一緒に入れて手渡してくれた。

「まぁ、そう落ち込むなよ、お嬢ちゃん。可愛いんだからさ。彼氏と一緒にまた金魚すくいしに来てくれや。そん時はコツを教えてやるからさ」

ニカッ、と気持ちいい笑顔に元気付けられて、ありがとう、と小さな声で金魚を受け取る。

「可愛い顔が台無しだ。笑ってな、お嬢ちゃん。彼氏の為にもよ!」

バイバイと手を振るおじさんに、小さくバイバイと笑って手を振り返す。先生も、ありがとな、おじさん、と声を掛けてから、一緒に屋台を離れていく。自然と、先生と手を繋いで歩き出した。貰った金魚の袋をできるだけ揺らさないように顔の前に掲げる。

「貰っちゃったね」
「可愛い子は得だよな」
「先生の彼女よ?」
「俺の彼女は可愛いよ?」

思ったよりも浮かれてる。繋いでいた手をぎゅう、と先生の腕に絡めて頭をこてりと寄せた。先生も嬉しそうに笑って私を見ている。

「先生だって格好いいわ」
「紫穂ちゃんの彼氏だよ?」
「見せびらかしたいくらいよ」

ふふん、と鼻を高くして笑うと、頬にキスを落とされて。

「急に何するのよ」
「や、可愛いな、と思ってさ」

私達、本当に浮かれてる。びっくりするくらい浮かれてる。金魚すくいの勝負が残念な結果に終わったことなんて忘れちゃうくらいに。

「ね、この金魚どうしよっか?」
「そりゃ飼うだろ。紫穂たちで飼うか?」
「何言ってんのよ。先生の家で飼うに決まってるでしょ」
「俺ん家でか?俺、世話しきれるかなぁ、急に家空けることあるし…」

頭を掻いて首を傾げる先生に、ぎゅうと身を寄せた。

「私が先生の家に行く口実が欲しいだけよ」

こんなことを口走っちゃうくらいに、浮かれまくってる。私の言葉に、先生は目を真ん丸に見開いてから、蕩けるような笑顔で私に笑い掛けた。

「じゃあ、この子の世話、頼むな。」

つん、と金魚の入った袋をつつきながら、先生は笑って。

「名前とかつけるか?金魚だし、キンちゃんとか?」
「センスなさすぎでしょ?ベルガモットとかどう?」
「いやいやいや!脈絡なさすぎだろ?!どっから出てきたベルガモット!」
「えー?何となく?」
「まず金魚にベルガモットとか重いし長すぎるわ!もっと言いやすい名前がいい!」
「えー?じゃあベルちゃん?」
「いい加減ベルガモットから離れよう?もっと他にもあるだろ、ぎょぴちゃんとかさ!」
「うわー、ジェネレーションギャップー」
「こらそこ棒読みすんな!」
「紫穂、きんぎょ注意報とかわかんなーい」
「なっ!それ嘘でも傷付くからやめて!」

こんなバカみたいなやり取りも、先生とだから楽しい。祭り囃子に合わせて、私達の楽しい夜も更けていった。

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