告白

「紫穂ちゃんは、やっぱり、冬が似合うなぁ」

20歳のバースデー。やっとお酒が飲めるようになるんだから、と先生が企画してくれたパーティ。忘年会も新年会も成人式も一人だけ飲めなかったんだから、紫穂ちゃんだけ特別な、と耳打ちされたのはつい最近のこと。流石先生のチョイス、と言わんばかりのお洒落なバーを貸し切って、バベルの皆や両親を呼んでそれはもう盛大にお祝いしてもらった。

「なに、それ」

ほんの少し、人酔いしてしまって、新鮮な空気を吸いに外に出たはずなのに、先生が追い掛けてきて。自然な動作で私の隣に並んだ。

「いやー、感じたままを言っただけよ?俺は」

先生はほろ酔いなのか、少しだけ頬が赤い。そういう私も、初めてのお酒にほんのり頬を赤くしているはずで。ドキドキしているのも、きっとお酒のせい。

「ふわふわでー、色白でー。意外と純情で」
「意外って何よ!意外って!」

ばしり、と先生の背中を叩くと、先生は笑いながら痛いと言って続けた。

「だってさ……いろんな男が言い寄ってきてるのに、全然なびかないじゃん」

なんか、理由があんのかなって、とふわりと笑う先生は、どこか苦しそうに眉を寄せていて。その理由は先生だよって言ったら、どうなるかな。お酒のせいでふわふわした思考を何とかマトモに働かせながら、思いとどまる。

「言い寄ってくる、男の人に、興味がないだけよ」

何とか、マトモに聞こえる理由を並べ立てて、溜め息を吐く。ずっとずっと片想いしてるから、なんて、口が裂けても言えない。

「じゃあさ、どんな男なら振り向くの」

はぁ、と白い息を吐きながら、先生は聞いてくる。その表情は白くなった息のせいでよく見えない。

「……言えないわ。そんなの」

だって、貴方のことだから、って言えたらどんなに楽になれるだろう。ぎゅうっと痛む胸を押さえながら、私も、はぁ、と息を吐く。目の前が一瞬だけ真っ白に染まって、ふわりと夜の闇が戻ってくる。真っ暗な空にポツポツと光る星を見つめる。ふと、先生の視線を感じてそちらに目を遣ると、真剣な表情をした先生と視線がぶつかった。

「俺じゃ……ダメか?」

小さいけれど、はっきりと聞こえる音量で、先生が告げる。

「え……」
「俺じゃ、紫穂ちゃんを、振り向かせられない?」

そっと、距離を詰めて、先生が続けた。先生の言葉を反芻しながら、嘘よ、そんな、と信じられない状況に目を見開く。

「ずっと好きだった。二十歳になるの、ずっと待ってた」

好きだよ、紫穂ちゃん、と先生が言葉を重ねる。嬉しいのと、驚きとで、手が震えている。自分を慰めるように、両手を握り締めた。

「うそ……」
「……嘘だと思うなら、酒のせいだと思って、忘れてくれ」

ふ、と寂しそうに笑って背中を向けた先生に、思わず縋る。

「……お酒のせいにもしたくないし、嘘なんかにも、したくない」

ぎゅっと先生の服を掴む手に力を込めると、ゆっくりと先生は振り向いて。

「それは、良い意味で受け取っても?」

私の顎に指を掛けて、ツイ、と上向かせた先生は、優しい表情で私を覗き込んでいる。私は恐る恐る手を伸ばして、先生の頬に触れた。

「……センセイが、すき」

小さく呟くと、先生はふっと嬉しそうに笑った。暗い影が降りてきたと思ったら、その瞬間口付けられていて。

「ずっと、ずっと。こうしたかった」

ぎゅっと先生に抱きすくめられて。ずっと触れたかった広い背中に、指を這わせた。

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