「もういい!知らないッ!」
付き合い出してから初めての喧嘩。今までにも散々喧嘩みたいなことはしてきたが、今日みたいな拗れ方をしたことは殆どなかったんじゃないだろうか。喧嘩の原因はどうでもいいことだった気がする。ただ、お互い譲ることもなく、昔みたいな言い合いになってしまって、収拾がつかなくなってしまっていた感じはあった。今までならば、お互い意地を張って決裂して終わり、だった。でも今は。もっと密な関係になっている今は、そんな風に終われる訳もなく。紫穂の決裂宣言に思わず戦いた。
「知らないって、お前ね…悪い、俺が大人げなかった」
背中を向けてしまった紫穂に素直に謝って、優しく後ろから抱き締める。俺の腕にそっと触れた紫穂に安心して、ゆっくりと紫穂の身体をこちらに向けてやると、その大きな目に涙を一杯溜めた紫穂が視界いっぱいに広がってぎょっとした。
「おいおい泣くなよ…俺が悪かったって」
殆ど見ることがない泣き顔に慌ててしまう。おたおたと焦って袖口で涙を拭ってやると、紫穂がきゅっと眉を寄せて俺の服の裾を指先で掴んだ。
「…ごめん、なさい」
俺の耳に届くか届かないかの小さい声。その様子に、紫穂も不安に包まれていたことがわかって。
「ばか…こんなんで別れたりしねぇよ…」
何かもう可愛くて、可愛すぎて。ぎゅうっと思い切り抱き締めた。
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