そりゃ心配するに決まってんだろ!

俺は焦っていた。カツカツと廊下を歩きながら、スマホを操作する。

「…チッ、やっぱ出ねぇ」

今日、十八回目のコール。朝から、メールも電話も繋がらない。普段なら、つれない態度であっても、何件かに一件、調子のいいときは毎回返事が来るメール。それが朝から一切レスポンスが無い。学校忙しいのかなと思っていたけど、夕方まで反応がないのはさすがに心配になって、電話を掛けたらこれも繋がらない。俺は焦っていた。

「そろそろ待機室に着いてる頃だろ」

思わず駆け足になって廊下を進んでいく。最後の曲がり角を勢いよく曲がって、チルドレンの待機室目掛けて走った。これで居なかったらどうしよう。上がる息を整えながら、インターホンを鳴らす。

「あれ?賢木先生どしたの?」
「紫穂いるか?」

対応に出たのは薫ちゃんで、焦りを隠すこともなく紫穂の安否を確認する。

「紫穂ー先生が呼んでるよー」
「はーい」

取り敢えず元気そうな声が聞こえてひと安心。それでも、顔を見るまでは安心できない。

「どうしたの?何かあった?」

全く普段と変わらない様子の紫穂が待機室から出てきて、もうひと安心。それでも、完全に不安が拭いきれなくて、思わず肩に手を置いてスキャンする。

「わっ、なに?」
「…………何ともなさそうだな」
「は?いきなりなんなのよ?」
「心配したんだぞ!朝から連絡一切ないから!」

ガッと肩を掴む手に思わず力が入る。すると、紫穂は一瞬だけキョトンとして、ああ、と納得したように答えた。

「今日、携帯家に忘れちゃったのよ」

悪びれなく告げた紫穂に、超速でデコピンを食らわした。

「いたッ!」
「おっまえ!俺がどんだけ心配したと!」

ビシッと綺麗なおでこに気持ちよくデコピンが決まる。でもすぐに抱き締めた。

「良かった…何ともなくて…」

はぁぁぁぁ、と腹の底から安堵の溜め息を吐く。苦しそうに俺の腕から抜け出した紫穂は、困ったように、大袈裟ねぇ、と笑った。

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください