ある冬の日

「はーっ…さっむ…」

オペ終わり、休憩がてら立ち入り禁止の屋上にやってきた。手術自体は上手くいった。生体制御も使って、やれることは全部やった。ただ、あとは患者次第だ。俺が力を貸してやれる範囲以上は、患者自身が頑張って生き抜いていくしかない。自分自身の力の限界を感じて、溜め息が出る。幾度経験しても、慣れることなんてない。ふぅ、と息を吐いて、壁に凭れてからしゃがみこむ。冷えたコンクリートが身体の熱を奪っていく。ふ、と頬に当たった冷たいものに目を上げると、チラチラと白いものが舞っていて。

「雪か…」

そりゃ寒いわけだ、と納得して立ち上がろうとした時、キィ、と屋上の扉が開いた。

「せんせ?居るんでしょ?」

「…紫穂」

白い息を吐きながら近付いてくる紫穂に向き直ると、紫穂は思い詰めた表情をして俺の隣にしゃがみこんだ。

「手術、お疲れさま」

そっと俺の手を両手で包み込んで紫穂は俯き加減で呟いた。本当に、彼女は情報に早くて驚かされる。緊急のオペだったのに、もう知ってるのか。

「大したことねぇよ」

何でもない風を装って笑い掛けると、眉を寄せてじっと俺を見つめる紫穂と目が合って。一瞬狼狽えてから視線をそらすと、ぎゅっと目を瞑った紫穂が近付いてきた。どうした、と問い掛ける前に俺の頬に影が降りて、リップ音が耳に届いた。

「…ずっと隣にいるから」

振り絞るような声で紫穂が囁く。何が起こったのか理解するのに数秒掛かってしまって。

「…ありがと」

初めての紫穂からのキスに、にやけてくる顔を必死に引き締めながら答えた。

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