「しーほっ!」
学校の廊下で呼び止められて振り返ると、薫ちゃんが飛び込んできた。
「もうっ、急にびっくりするじゃない!薫ちゃん」
「えへへ、ごめんごめん」
惚けた様子で頭を掻いて笑う薫ちゃんは今日も可愛い。
二日前の沈んだ薫ちゃんの姿が、全く想像できないくらいに明るくて。
「どうしたの?」
にっこりと笑って問い掛けると、薫ちゃんはえへへへと笑って私の耳許で囁いた。
「ありがと、紫穂。皆本と上手くいったよ」
言い終えて、ぎゅーっと抱き着いてきた薫ちゃんを受け止めながら、固まる。
え?
早くない?
まぁ、もう纏まるしかなかった二人のことだから、早いも遅いもなかったのかもしれないけれど。
「そう、良かったわね」
「うん!紫穂のお蔭だよー!」
「…私は何もしてないわ」
そう、ちゃんとあるべき形に納まったというだけで、私は何もしていない。
いずれはこうなるとわかっていたはずなのに、やっぱり、少し寂しい。
昨日、先生に指摘されたように、薫ちゃんを取られたみたいな気持ちが、じわじわと湧いてくる。
昨日は大丈夫って思えたのに、どうしてだろう。
やっぱり凄く寂しくて、切ない。
「どしたの?紫穂」
薫ちゃんが不思議そうに私を覗き込んでくる。
私はそれに、小さく笑って首を振った。
「…大丈夫よ、薫ちゃん」
先生も同じ気持ちなのかしら。
ツキリと痛む胸を撫で付けて、ここには居ない人に思いを馳せた。
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