「もー、薫ちゃんまだー? いつまでこうしてればいいのー?」
ウンザリした声をあげながら、目をつぶってプラプラと足をバタつかせる。更に周りが見えないようにと自分の手のひらで覆う厳重さで私はひとりソファに座らされていた。
「ゴメン! もうちょい! ハイ、いいよ! お待たせ紫穂!」
薫ちゃんの声につられてゆるゆると視界をクリアにすると、先ほどまでとなんら変わらない空間が広がっていて。あれ、と首を傾げる。
誕生日プレゼントを用意するから、と言われて、お願いされた通りに視界を覆っていたのに、周りにはプレゼントと思しき物は見当たらないし、先ほどまではいなかった葵ちゃんと悠理ちゃんが薫ちゃんの横に並んでいるだけで、何の変化もなかった。
「……どういうこと?」
今年のプレゼントは何も無しってことかしら? と眉間に皺を寄せていると、ガチャリ、と待機室の扉が開いて。
「……誕生日プレゼントは俺、だそうだ」
照れと困惑をない交ぜにしたような表情で立ち尽くす先生がそこにいた。でもその先生は明らかにいつもと違っていて。
「したかったんだろ? 制服デート」
困ったように笑った先生が私に手を伸ばす。私は思わず立ち上がってまじまじと先生を見つめた。いつもみたいに見上げなくても視界に入る顔。そして少しだけ幼さの残る柔らかそうな頬。私と同じ制服に包まれた身体。恐る恐る一歩足を踏み出して先生に近寄ると、松風君やバレットくらいの身長差まで縮んでいる。まるで高校生みたいなその見た目にどぎまぎしながら薫ちゃんたちに振り返ると、ニコニコと嬉しそうに微笑みながら私たちを見ていた。
「紫穂、この前、一度でいいから制服デートしてみたいなぁって言ってたじゃん」
「アンタのことやから、その願いを叶える為だけに浮気、なんてことはせんやろけど、流石に先生に制服着たってってお願いするのは無理あるやん?」
「でも、バベルに潜入捜査用の大人サイズの制服があったからさ、これはもう催眠で見た目を高校生にするっきゃないってなって!」
「私の力で見た目だけ高校生に調整させてもらいました」
目をぱちくりとさせながら、また先生に視線を戻すと、先生は照れたように頭を掻きむしって私の手を取った。
「いいから行くぞ! 時間なくなっちまう!」
「えっ! ちょっと待って! どこ行くの?!」
タッと駆け出した先生に引っ張られながら問いかけると、先生は私をチラリとだけ振り返ってまた前を向いた。
「制服デート! するんだろ?」
いってらっしゃーい、というみんなの声を背中に受けながら、先生の手をギュッと握り返すと、そのままグイッと引っ張られた。
「とにかく何も考えずに今は走れ!」
「わ、わかった!」
先生に引っ張られながらバベルの廊下を駆け抜けて、人の多いエントランスを何とか人を避けながら走って、あっという間に玄関まで辿り着く。
「キツいだろうけどッ、もうちょい我慢してくれッ」
はぁはぁと荒い呼吸で何とか酸素を補給しながら、先生について行こうと足を前に繰り出す。自動ドアを二人でくぐり抜けて大きな門扉のところまでやってきてから、やっと先生は足を止めた。
「ゴメン。悪かった。急に走らせて」
肩で息を整えながら先生を睨みつけると、先生は繋いでいた手を解いて私を労わるように指を絡め直した。
「……さすがに、職員の誰かにこの姿を見られんのは恥ずかしかったんだ。本当にゴメン」
皆本なんかに見つかったら絶対ドヤされるだろ?と先生も息を荒げながら壁に背中を預けている。はぁ、と深く息を吐き出して呼吸を整えた先生は、私の背中を優しくさすってから私の呼吸に合わせてポンポンと撫で付けた。
「……赤の他人だって主張して、何とでも誤魔化せば良かったのよ」
そうすればこんな急に走らされることになんてならなかった、と文句を言うと、頭を掻きながら先生は答えた。
「それは無理があるだろ。どっからどう見ても俺じゃん。そんなことに時間食ってる暇があったら、デートに時間を回した方が合理的だと思ったんだ」
「……制限時間はいつまでなの?」
「大体三時間くらいらしい。時間が勿体ねぇからそろそろ行くぞ」
「行くって何処に?」
「そりゃ君の行きたいところだよ」
きょとんとした顔で私を見てくる先生を、私も目をパチパチさせて見返すと、笑いながらくしゃりと頭を撫ぜられて。
「したかったんだろ? 俺と制服でデート」
言われてみて、相当恥ずかしいお願いをしてしまっているのではと思い至ってしまって、かぁ、と顔が熱くなる。赤くなった頬を隠すように繋いでない方の手で覆いながら俯くと、照れんなよ、とまた笑われて。
「彼女の可愛いお願いを聞いてあげられないようじゃ、男が廃るって話。俺には直接言えなかったんだろ? 気付いてやれなくて悪かった」
きゅ、と絡めた指先に力を込められて、先生の素直な想いが伝わってくる。純粋な気遣いが気恥ずかしくて、余計に頬に熱が集中する。
「で? どこ行きたいんだ? 俺、流石に、今の高校生のデートなんてわかんねぇよ?」
ふわふわした空気を払拭するように話題を変えて、先生は背中を壁から離して姿勢を正した。くい、と手を引かれて顔を上げるよう促される。渋々赤い顔のまま先生に顔を向けると、にこりと優しく微笑まれた。
「恥ずかしがることねぇじゃん。今日は俺がプレゼントなんだし? 楽しんじまえよ」
何でもワガママ聞いてやるからさ、と笑う先生は、いつもの先生より幼いのに、いつもの大人っぽさはそのままで。きゅんと胸が音を立てた。見た目高校生なのにその笑顔は心臓に悪いわ、と心の中で呟きながら、きゅ、と眉を寄せて恥ずかしさを隠すように先生を睨みつける。
「本当に何でもいいの? 笑わない?」
「笑うわけねぇじゃん。いいから何でも言ってみろって」
ん? と首を傾げながら優しく問いかけてくる先生の手を、きゅっと握り返す。
「あのね……」
「おう」
「……プリクラ……撮りたい、な」
かぁぁぁぁ、と頬に熱が集中するのを自覚して、思わず先生から視線を逸らす。一瞬黙り込んだ先生が、は、と息を吐いて口元を押さえた。その動作にぎゅっと胸が潰れそうになって眉を顰めた。
「……やっぱり他のことにする」
羞恥に耐え切れなくてキッと先生を睨み付けると、先生は慌てて手を振って否定した。
「いや! 違う! そーいうんじゃなくて! 今もプリクラって存在するんだな、と思って」
そっちの驚き、という先生は、本当に驚いているだけのようで。じっと見つめて真意を探って、他の感情を読み取ろうとしてもそれ以外のものは感じ取れなかった。強ばった表情から何とか力を抜いて、眉間の皺を解すと、ニカッと子どもっぽく笑った先生がもう一度私の手を引いた。
「どこにあるんだ? 今でもゲーセンにあるのか?」
そう言ってゆっくり歩き始めた先生の隣にタッと並んで、ぽつりと呟く。
「学校からの帰り道に、大きなゲームセンターがあって……そこならいっぱい、種類があるから……」
「じゃあそこ行こうぜ。今からだったら、行って帰って、三時間以内で余裕だろ」
学校へ向かうバス停に向かって歩き始めた先生の隣を、少し俯きながら歩いていく。手を繋いで歩くなんて初めてじゃないのに、むしろいつもしてるのに、いつもとは違う距離感に、ドキドキと胸が戸惑って仕方がない。いつもほど身長差が開いていないせいで、手を繋ぐ位置が違う。先生の声の位置も違う。触れ合う肩の位置も違う。中身は同じ先生で、ただ姿形が高校生というだけなのに、こんなにもいつもと違ってドキドキしてしまう。そのドキドキが繋いだ手のひらから先生に伝わってしまいそうで、赤くなる頬を見せられない。
ちょうどタイミングよく来たバスに乗り込んで、空いていた座席に先生と二人、並んで座った。並ぶ肩の位置にドキリとして思わず窓の外に意識を逸らす。先生はそんな私を気にした様子も見せず、何気なしに喋り始めた。
「俺さー、高校の時にしょっちゅう女友達とプリクラ撮らされたんだけど、今もそーいうのあんの?」
「え? そういうのって?」
「何か、取引? っつーの? 俺のプリクラは高値で売れるんだと」
「はぁぁ!?」
取引? 高値で売れるって何? どういうこと? と今までのふわふわした空気を吹き飛ばす勢いで先生に振り返ると、先生はうーんと眉を寄せながらポツポツと昔話をするように喋り始めた。
「女友達たちがさ、他校の人間とか、下級生とか上級生とか、俺のプリクラ欲しいヤツに売って、小遣い稼ぎしてたんだよ。他にもそういうことされてるヤツいたけどさ、なんか俺のはダントツなんだと。一時期毎日ゲーセン通ってた時もあったなぁ」
はぁ、とウンザリしたように肩を落とした先生は、私の顔を見て力なく笑った。あまりいい思い出ではなさそうなその話に眉を顰めて、苦々しげに呟く。
「……何それ。ほとんどアイドルのチェキ状態じゃない。モテる男はつらいわね?」
私もはぁ、と息を吐いて告げると、先生はバスに揺られながら首を傾げた。
「モテるっつーより、顔がイイ男を良い様にしたいだけだろ? 実際俺、高校の時彼女なんて居なかったし」
「そうなの?」
「そうそう。誰かの賢木くんじゃなくて、みんなの賢木くん。そうじゃねぇと女子の間で戦争が起きるから」
ハハ、と渇いた笑いを零した先生に、もっと眉を顰めて繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
「……そんなの、先生には関係ない話じゃない」
「まぁな。でも、女子のイザコザに巻き込まれるのにはウンザリしてたから、そういう扱いの方が気は楽だったよ」
着いたぜ、と優しく手を引かれて、先生につられて立ち上がる。話が中断してしまった気がして否めないけれど、手を繋いだままバスの料金を払ってそのまま降車した。何だかモヤモヤしたものを抱えたまま、先生と目的地に向かう。バス停から歩いてすぐのそのゲームセンターは、今日も放課後帰りの学生たちで賑わっていた。
「両替機どこだ? 小銭あんま持ってねぇから両替しねぇと」
ゲームセンターに足を踏み入れて、きょろきょろと辺りを見回している先生の手を引っ張って、撮影機の側にある両替機を指差す。
「あっちにあるわ。っていうか、私のお願いなんだし私が出すわよ」
「そんなんいーから。俺が出すよ」
「そういうわけにはいかないわよ! っていうかその高校生に見えない財布仕舞って!」
「はぁ!? しょうがねぇだろ俺の財布これしかねぇんだから!」
「先生今は高校生なのよ! ちゃんと擬態してよ!」
「そんなこと言うんだったら紫穂だってその先生呼び止めろよ! 高校生の彼氏に向かって言う呼び名じゃねぇだろ!」
お互い両替機にお金を突っ込んでジャラジャラと小銭を手にしながらキャンキャンと吠え合う。何だかこんな風に子どもみたく言い合いをするのは久々な気がする。高校生の見た目に釣られてしまっているのかもしれない。先生の腕に手を絡めてグイと引き寄せた。
「あっちの機械で撮ろ、修二! これで満足?!」
眉を逆立てながら言い募ると、いつもより近い顔の距離に先生も落ち着かなくなったのか、ぷい、と顔を背けて頷いた。撮影機の前でもう一度押し問答をして、結局高校生らしく割り勘で支払うことに先生を無理矢理納得させて、カーテンを潜る。明るい照明に一瞬だけ目を瞬いて、コイン投入口に自分の分のお金を入れてしまう。まだ文句を言いたそうな先生の肘を突っついて、残りのお金を入れてもらった。鏡で手早く髪型をチェックして、メイクポーチに手を伸ばすと横から先生が鏡を覗き込んできて。じっと興味深そうにメイクを直している様を鏡越しに見つめてくる。
「……ナニよ」
「いや? メイク直さなくてももう充分可愛いのになと思って」
「……せっかく先生とプリクラ撮れるんだもの。可愛く写りたいじゃない」
そう言いながらリップを直してマスカラのダマをブラシで解いて瞬きをすると、チュッと頬にキスを掠め取られた。
「あんまり可愛いこと言うなよ」
くしゃりと頭を混ぜられて、もう! と振り払う。照れを隠しながらもう一度髪を整えて、カメラの前に立った。
「プリクラ撮ったことあるんだったら説明は要らないわよね?」
「ああ、多分。なんかポーズした方がいいのか?」
なんかいろいろあっただろ? と言われて、先生の時代のことはよくわかんないけど、と返すと、ひでぇ、と笑い返されて。
「ネタプリじゃないから、普通でいいよ。そもそも交換なんてできないし」
「あぁ、そっか。三宮さんこんな格好良い人と浮気してる! っていうかこの人誰! 紹介してってなっちゃうもんな」
「……自分でそこまで言えちゃう先生のメンタルが羨ましいわ。ま、とにかく、記念写真みたいなものだと思って? そもそも催眠の姿だし、ちゃんと写るかわかんないじゃない」
それもそうだな、と先生も納得したのか、二人揃ってピースをしてみたり、キメ顔を決めてる先生に笑ったり、と楽しく撮影を続けていく。次第に気持ちもノってきて、二人で身を寄せ合ってポーズを決めてみたり顔を寄せてドアップで撮影したりしていると、ふ、と先生と距離が縮んで、頬にチュッとキスされた。
「なっ、なにする!?」
「んー? 彼氏と彼女はこういうプリクラ撮るんじゃねぇの?」
そう言いながらにやりと笑った先生に腹が立って、ぐいとネクタイを引っ張った。
「おわッ」
先生の身体が傾げたところを狙って私からも頬にキスをする。うまいタイミングでカシャリとシャッターの音がして、ニヤリと微笑む。
「仕返し!」
ふふ、と笑って先生を解放すると、先生に腕を掴まれて引き寄せられた。じ、と見つめられて、あ、と思った瞬間には唇を奪われて。
「ホント、あんま可愛いことすんなよ」
ポン、と頭を撫でられて、撮影が終わったことを機械が告げる。そのまま見つめ合っていると、早く次のコーナーに移動するように機械に告げられて、わたわたと二人でカーテンから飛び出してパネルのあるコーナーへと移った。何だかそれが面白くて二人でクスクスと笑っていたら、バババッと自分たちが写った写真が表示されて。ノリノリでプリクラを撮っている自分たちに混じって、頬にキスをし合う写真とキスをしている自分たちが映し出されて、ハタと正気を取り戻した。調子に乗ってなんて恥ずかしい写真を撮ってしまったんだろう。そして悠理ちゃんの催眠は流石だ。どの先生もちゃんと高校生のまま映像に残されている。恥ずかしい写真を除外して印刷する写真を選択しようとすると、横からペンをひったくられてパパパと先生が写真を選んで決定ボタンを押してしまった。
「ああっ、ちょっと! 何するの!」
「この写真に『俺の紫穂!』って書いてデスクに飾るんだよ。異論は認めない」
半額俺も出したんだから好きにする権利はあるはずだ、と先生は早速私の頬にキスをしている写真に文字を書き込み始めた。その様子にかぁぁ、と頬が熱くなってくるのを感じながら、もう一枚のパネルで自分も写真に落書きを始める。顔を寄せて笑っている自分たちの写真には日付を、決めポーズを決めている写真にはスタンプを押して、落書きを終えていく。最後に残ったキスシーンの写真が映し出されて、口元が緩みそうになるのを手を遣って考えるふりをして誤魔化す。どうしようかと考えていると、ピンとアイデアが閃いて、そのまま手を動かして文字を書き込んでいく。すらすらと書き込んだ文字に満足して、満面の笑みを浮かべた。決定ボタンを押して写真の調整に映ると、これは先生の頃にはなかった機能のようで、先生は興味津々で私が微調整していく様を見ていた。
「っていうか充分可愛いのにこんなに盛る必要なくねぇか?」
「それとこれとは別! こういうのは盛れるだけ盛るもんなの!」
そんなことしなくても充分可愛いのに、と聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフを聞き流しながら写真の調整を終えて、完成した写真をスマホに転送する処理をした。
「後で先生にも転送するね。ほら、終わったよ。印刷出てくるの待ちましょ」
全ての作業を終えてカーテンから出ると、あっという間に印刷されたシールが出てきた。
「あれ? 分割こんなんでいいのか? 枚数明らかに少ないぞ?」
出てきたシールを真ん中で切り分けて先生に手渡すと、自分の分のシールを大事に仕舞いながらそっと告げる。
「……これは誰にも配らない、自分で見るためのものだから、これだけでいいの」
先生と私が持ってるだけで充分だわ、と先生に向かって笑う。
「それに、ちゃんと書いてあるでしょ? 私は先生のことお金に変えたりしないもの」
デカデカと書かれた『これは私の所有物なので、販売しておりません』という文字を指差してにこりと笑うと、先生は、ふはっ、と笑ってプリクラを大事そうにポケットに仕舞った。
「……ホント、あんまり可愛いことすんなよな!」
嬉しそうに顔をクシャクシャにして笑った先生は、今の高校生らしい見た目にぴったりの子どもっぽい笑顔を浮かべていて。その表情に満足して先生の腕に手を絡めて歩き出した。
帰りにゲームセンターに入っていたクレープ屋さんで二人でクレープを買って――ここは俺が出すと言って先生は譲らなかった。でも、その黒い革の長財布はどう見たって高校生の持ち物じゃないと心の中でツッコんだ――、食べる前に二人並んで自撮りをしたり写真を撮りあったり。結局は本当に先生が制服を着てるだけで、普段してるデートと変わらない過ごし方をして、仲良く手を繋いだまま行きと同じようにバスに乗り込む。バベルに着いてからも、これまた行きと同じように、できるだけ人目につかないように廊下を二人でこそこそと駆け抜けて、何だか二人でバレないようこっそり悪戯をしているみたいで楽しかった。
「おかえりー。早かったね?」
「ええ、でももう充分だわ。アリガトウ」
クスクスと二人で笑い合って内緒話をするように額を合わせてから、何事もなかったかのように離れる。すると、葵ちゃんがウンザリしたような目でこちらを見て、あーあ、と溜め息を吐いた。
「相変わらずホンマに仲エエな。ほんで? 二人でどこ行って何してきたん?」
「ふふ……内緒!」
唇に指を立てて笑うと、目をぱちぱちと瞬かせた薫ちゃんと葵ちゃんと悠理ちゃんが嬉しそうに笑って。満足してもらえたなら良かった、と嬉しそうに微笑まれた。
「じゃあ俺そろそろ着替えるわ。」
そう言って、葵ちゃんと悠理ちゃんと先生が私たちの待機室からテレポートして消えてしまった。それを笑顔で見送ってから振り返ると、薫ちゃんがにやにやと嬉しそうに口許を歪めて私に近付いてきて。
「今年の誕生日プレゼントはどうだった? 紫穂」
くふふ、と含み笑いをしている薫ちゃんに、満面の笑みで返す。
「最高だったわ。何だか、歳の差とかで悩んでたのが馬鹿みたい」
「……そんなに良かったの?」
「ええ。制服でデートするのは楽しかったけど、結局普段と何も変わらないなって気付いたら、どうでも良くなっちゃった」
「……へぇー」
「薫ちゃんも皆本さんに頼んでみたら? 制服デート」
「へっ?!」
「楽しいのは間違いないわよ」
顔を真っ赤にして戸惑っている薫ちゃんに笑いかけながら、顔を真っ赤にしながら制服に身を包んでいる皆本さんを想像してクスリと笑った。
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