彼が最も欲しいのは甘くて苦い彼女からのプレゼント - 4/5

 今日は絶対授業に出た方がいいと無理矢理ラギーに校舎まで引っ張ってこられた。めんどくせぇ、とそのままバックれようとしたところに朝からケイトとトレイがやってきて、もうチョコは貰ったのかなんて言い出しやがる。何のことだと眉を寄せて首を傾げていると、うわマジごめんねひょっとして一番貰っちゃった感じ? とケイトが自分の投稿したマジカメを見せびらかしながらウザったく絡んできやがった。ウゼェ、と口からこぼれそうになった言葉は音にならず、俺は思わずケイトのスマホを引っ掴んで画面を凝視した。何だよこれ、という疑問も音にはならず、ただひたすら映し出されたものを消化しようとまじまじ画面を見つめる。
いつもの一年二人、リドルにケイト、トレイに囲まれて微笑む草食動物。そして男どもの手には手製のラッピングと思しきチョコ。何だこれはともう一度眉を寄せて画面を睨みつけると、いつもに増してニヤけ面のケイトがぴらりとポケットから何かを取り出した。オマケにクッキーまで貰っちゃった♡ とわざわざ俺に成果を見せびらかしてくるケイトに苛ついてグルルと喉が鳴る。まぁそう怒るなよ、とトレイに嗜められて、チッと盛大に舌打ちをしたところで、君たちも貰ったのかい? と朝から聞きたくねぇルークの声が耳に届いて、ガルル、と本格的に威嚇しながら振り返る。まだ貰ってないとは、と驚いた顔をしているルークを睨みつけて、フン、と鼻を鳴らしながら椅子に深く座り直した。
ラギーに言われた意味を何となく理解したような気がして、朝からずっと大人しく授業を受けているというのに、待てども待てども草食動物は俺の前に現れない。
なのに、なぜか俺の周りに朝見たクッキーと同じものを持った奴が増えやがるし、廊下を歩いているだけでクッキーを持つ浮かれた野郎どもと何人も擦れ違った。
どういうことだと思っているうちに、ヴィルにはあらやだアンタ貰ってないの? なんて笑われるし、オクタヴィネルの奴らには言い値で売ってやってもいいとか言われるし、ジャミルは珍獣でも見るような目で俺を見てきやがるし、カリムの野郎なんて俺のやろうか? とか笑えねぇ冗談を言い出しやがる。
本当に何なんだよ。
そうこうしてるうちにラギーとジャックが俺の顔を覗きに来て、ジャックはまだ貰ってなかったのかという驚きが口に出さなくても顔にありありと書いてあるし、ラギーは笑いを堪えるのに必死で唇がミミズみてぇに曲がってやがるし、本当にたまったもんじゃない。
クルーウェルは日頃の行いじゃないか? なんて言うし、バルガスは俺の筋肉の方が優れているからじゃないか? なんて言うし、トレインなんかはルチウスの分まで貰ったなんて言い出すから、もう本当にふざけてるとしか言いようがねぇ。
学園長までニタニタして嬉しそうにチョコを見せびらかしてきやがるから、いっそ逆に俺は今日この日に何ひとつ砂に変えなかっただけ偉いんじゃないか、とイライラが一周回って変な方向へ向かい始めた。

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