「お探しのモノはこれじゃないかい小鬼ちゃん?」
いつもの掛け声とともに差し出された箱は、見ただけでわかる高級品のオーラを纏っていた。
「ありがとうございます! 本当に助かります!」
自分の予算に合わせて用意してもらった某国の王族御用達ショコラの詰め合わせ。
それをドキドキした気持ちで受け取りながら代金を払って大切に鞄の中へ仕舞う。
「でもねぇ、小鬼ちゃん? 本当にそれでいいのかい? 男っていうのは意外と単純なモノなんだよ?」
カウンターに肘を突きながら苦笑いを浮かべているサムさんに、あはは、と力無く笑って眉を下げる。
「これがいいんです。マスターシェフでも超辛口って有名じゃないですか。今からラギー先輩の手料理に勝てるわけないし、変に手作りしたものって毒とかいろいろ、そういうので受け取ってもくれなさそうだから……」
サムさんには素直に、レオナ先輩に渡すチョコが欲しいから王室御用達みたいなチョコが欲しいと伝えたのもあって、弱気な自分をほんの少し曝け出してしまう。そもそもこの高級チョコですら、何が入っているかわからない、と受け取ってくれないかもしれない。
「うぅーん……そんなことない、と思うんだけどね? まぁ、健闘を祈るよ。小鬼ちゃん」
また来てね、と穏やかな微笑みに見送られて購買部をあとにする。どうせ渡せないかもしれない。そうしたらこの高級チョコは自分のご褒美にしてしまおう。まず、レオナ先輩に会えるかどうかもわからないし。植物園に行けば会える確率が上がるのはわかってはいるけれど、受け取ってくれるかもわからないチョコを渡すためにお昼寝を邪魔しに行く勇気は出ない。
「バレンタイン、かぁ……」
まさか異世界で、こんな重みのあるチョコを渡したい人ができるなんて。
赤くなる頬を押えながらこのチョコレートをどうグリムに話そうかと思案した。
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