「ねぇ……ちょっと聞いてもいい?」
何でもない日のランチタイム。本当に何でもないことのように、できるだけ感情を波立たせないようにしてエースとデュースに問いけけた。
「あのさ……こっちの世界にもバレンタインってあるの?」
「え? なに、俺にくれんの?」
僅かに身を乗り出すようにして逆に聞き返してきたエースにびっくりして、少しだけ後ろに頭を仰け反らせる。
「……くれる……ってことは、こっちのバレンタインも女の人が男の人にプレゼントする感じ、なの?」
「いや。別に女性から男性に限定されてるわけじゃないな。親しい間柄だったり、家族だったり、友人同士だったり。これを機にもっと親しくなりたいと思ってプレゼントすることが多いんじゃないか」
ランチのオムレツをナイフとフォークで切り分けながら、デュースは首を傾げて言った。ふぅーん、と何でもないふりをして聞いていると、ニヤニヤしたエースがランチの乗ったトレイを押し退けて私の顔を覗きこんでくる。
「ユウの世界では女の人から限定なの? それってー、つまりー、ユウにはプレゼントをあげたい男の人がいるってことじゃーん?」
「そ、そんなんじゃないよ! ただ、その、ちょっと気になっただけ、っていうか……」
もごもごとフォークを咥えながらお行儀悪く語尾を誤魔化していると、純粋に気になる、という目をしてデュースが私に問いかける。
「ユウの世界のバレンタインはどんな感じなんだ?」
「……えっと……製菓業界の販売戦略から始まったんだけど、女の人が男の人にチョコをプレゼントしてね、お世話になった人に義理チョコとか、いろいろあって、今では友達同士で友チョコを送り合ったりとか……その……好きな人に、本命チョコを渡したり、とか」
かぁ、と赤くなる顔を誤魔化すように俯くと、やっぱりニヤニヤ笑っているエースが私の顔を覗き込もうとしていて、もーやめて! と降参しながらエースの肩を押し退ける。ふーんほーうへーえと訳知り顔で腕を組んだエースはニヤけて仕方がないらしい口元を無理矢理元に戻すようにして口を開いた。
「へぇー? でもま、今の話を聞いてたヤツらは、ユウからチョコ貰えるかも! って期待してんじゃねぇの?」
「え?」
「その……義理チョコ? 友チョコ? みたいな文化はこっちでもあるからさ。んで、やっぱ男は女の子から何か貰うと嬉しいじゃん! 男子校で味気のねぇバレンタインで終わるハズだったのが、女の子から何か貰えるかもーってなったらそりゃあ色気欲しさにユウに優しくしてくる男子はここにいる皆どころか全校生徒レベルじゃね?」
エースのその言葉に、え? と思わず食堂を見渡すと、集音性能の高い獣人族だけじゃなく、本当に食堂中にいる生徒みんながぎらついた目をして私の方を見ている。
「う、うそ……まさか……」
「こりゃ早めにトレイ先輩にでも相談して対策練っといた方がいいんじゃね?」
俺らの分も期待してっから! と笑顔で言うエースと曖昧な表情で笑っているデュースは、今回に限っては全く助けてくれなさそうで、思わず二人の腕を掴んで、トレイ先輩のところまで一緒に来て! と頭を下げた。
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