サンデー2019年24号と25号の間の妄想補完

「松風の作戦、聞いたんだろ?」
「ええ。」

サイコメトリーを使った形跡がないのに、どうしてここがわかるのかしら。
一人、海を見つめていた私の横に、先生がさも当然かのように並んで立つ。

「あいつの作戦、どう思う?」
「…いいんじゃない?なかなか良い線いってると思うわ」

ザァッ、と船が波を切る音が沈黙を支配する。
はぁ、と先生が溜め息を吐いて私に困った笑顔を見せた。

「…こんな時くらい、俺と離れて、寂しいとか言ってくれよ。」
「なに言ってるの?寂しいとか、バカじゃないの?」

これは作戦なのよ、と自分にも言い聞かせるように強く言い放つ。
先生が、こちらをじっと見つめている視線が、いたい。

「…俺は、皆本も大事だけど、紫穂だって大事だ」
「私はッ!」

先生の言葉を遮るように叫ぶ。
苦しくて、眉間にシワが寄るのがわかる。
それでも、強く、先生を見つめ返した。

「私は、先生みたいに割りきれない」

しんとした空気に、はりつめた私の声が響いて。
冷たい風が、私たちの間をすり抜けていく。

「…私は一生、先生の中の皆本さんに嫉妬するし、薫ちゃんの側から離れることも出来ない。」

どっちつかずな自分。でも、両方の手を繋いだら、私の身体はきっと、裂けてしまう。
大切な人を全部抱え込んで守れるほど、強くない。

「…私たちは、所詮、ひとりぼっちなのよ。」
「そんなことねぇよ。俺が側にいるだろ?」
「サイコメトラーなんて、実戦でなんの役にも立たないのは、先生だってわかってるでしょう?!」

私は薫ちゃんと肩を並べて戦えない。私には、私自身にはその力がない。
それでも、と思う。
側にいて、一人じゃないんだと、私が側にいるから、と伝えてあげられることはできる。
結局、私は薫ちゃんを一人にしておけない。一人残して死んだりできない。
その時が来たら、先生じゃなくて、私は薫ちゃんを選ぶだろう。

「たとえ何もできないとしても、先生は皆本さんの側にいるべきよ。もし必要なら一緒に死ぬのが先生の仕事。」

皆本さんを、一人にしちゃダメ、と先生に訴える。
一歩分離れていた距離を詰めて、先生に軽く拳をぶつけた。

「今度こそ、皆本さんのこと、頼んだわよ。」

先生を強い目線で睨み付ける。
先生は、ぶつけた私の拳を掴んで、力強く握り締めた。

「ああ、わかってる。」

もう、次はねぇからな、と先生が空を見上げながら呟いた。

「…紫穂も。生きろよ。」

先生は笑顔を消して、真剣な表情で私を見つめる。
私はそれに、笑って頷いた。
先生は満足したのか、おやすみ紫穂、と一言だけ残して去っていく。
私はその大きな背中が見えなくなるまで、じっと見つめた。
お願い、私の透視える範囲で死なないでね。

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