俺たちの間柄は結局なんなのかという件について - 2/3

「太りたくないし、軽く食べるだけにしようかな……先生はどうする?」
「俺もあっさりしたやつにしようかな」
「もう店員さん呼んでいい?」
「あー、うん。いいぞ」

俺の返事を半ば待たずにベルを鳴らした紫穂ちゃんはサラサラと注文伝票に注文を記入している。自分の注文も別の伝票に記入していると、僅かの間もなくやってきた店員が俺たちそれぞれの注文を確認した。

「リブステーキと爽やかにんじんサラダ、ティラミス、牛スネ肉のシチューとガーデンサラダ。以上でよろしいですか?」

流れるようにオーダー内容を読み上げた店員に二人揃って頷くことで返事をする。店員が立ち去ってからメニューを元に戻して、眉を寄せつつ紫穂ちゃんに向き直った。

「……軽く食べるって言ってなかったか?」
「先生こそ。あっさりしたのって言ってなかったかしら?」

フン、と腕を組みながら先に視線を逸らした紫穂ちゃんに溜め息を吐いて首を振る。

「……メニュー見てたらやっぱ肉食おうかなってなったんだよ。別にいいだろ」
「もう歳なのに胃は大丈夫なのかしら? 胃薬処方してあげようか?」
「いらねぇし、俺はまだ若い。この程度でもたれるほどヤワじゃねぇよ」
「どうだか?」
「紫穂ちゃんこそ太りたくないとか言ってガッツリ注文してんじゃん。オマケにちゃっかりデザートまで」
「私はいいの! まだまだ若いもの」

軽く言い合いをしているうちに、あっという間に料理が運ばれてくる。当直明けの疲れきった身体にはこのドライさが有り難い。言い合いもそこそこに、カトラリーケースからそれぞれ必要なものを取り出して黙々と食べ進めていく。

「ねぇ、サラダ。半分ずつシェアしない?」
「あー、いいぞ。好きなだけ持ってけ」
「アリガト」

テキパキとサラダを取り分けて俺に差し出した紫穂ちゃんは、もくもくと小さな口を動かして自分の分のサラダを食べ始めた。
いつ見ても食べてる姿は可愛いなとか濡れた唇が色っぽいなとか、ふつふつ沸いてくる雑念を取り払うように自分もガツガツと食べ進める。
確かにここまではいつもの当直明けと変わらない。
だからってこのあともいつも通りにいくかなんてわからないだろと自分に言い聞かせる。
そもそも今日こそは流されないぞって気合い入れてたくせにもう流されそうになってんじゃん、と快楽に弱い自分にほとほと嫌気が差してしまう。紫穂ちゃんにバレないよう小さく溜め息を吐くと、紫穂ちゃんは幸せそうにティラミスを口に運んでいた。

「……うまいか?」
「うん。しあわせ。おいしい」

顔を綻ばせ子どもみたいな語彙で会話する紫穂ちゃんは堪らなく可愛くて愛おしい。溢れそうになる気持ちを抑え込みながら紫穂ちゃんの食事が終わるのを待った。

「……ゴチソウサマ。行こっか」

にっこり笑った紫穂ちゃんに頷いて会計に向かう。それぞれ自分の会計を済ませて店の外へ移動すると、するりと紫穂ちゃんが俺の手に指を絡めて腕に抱き着いた。

「ねぇ、今日も先生の家、寄っていい?」

腕に感じる柔らかい感触に声を上げてしまいそうになるのを何とか堪えてグッと奥歯を噛み締める。

「ダメ……?」

ちらりと上目遣いで俺の顔を覗き込む紫穂ちゃんに、ゆっくり頷いてから小さくいいぞと返す。やった、と笑う紫穂ちゃんはやっぱり可愛くて、頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。
結局いつものパターンで流されてしまった自分に後悔しつつ、好きな子のオッパイに勝てるわけねぇだろ、と情けない言い訳で自分を慰めるしかなかった。

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