「おつかれ!紫穂」
「お迎えありがと、センセ」
手を取り合って車を停車している場所まで歩いていく。
結局、大学への通学は、先生に車で送迎してもらうのが定番になってしまっている。
今までと違うのは、晴れて恋人同士になって、堂々と手を繋ぐようになったこと。
仕事を抜けて送迎してもらうのは申し訳ないと過去に一度伝えてみたら、先生は笑って局長の命令でもあるし、役得だからいいの、と答えた。
それを聞いてからはすっかり甘えて先生との時間を満喫している。
「今日は変わったこと何もなかったか?」
「ええ。今日は講義ばっかりだったし」
ハンドルを握った先生の指にキラリと指輪が光る。
同じデザインの指輪を私も指に嵌めている。
正式に付き合うようになってから、先生はすぐにペアリングをプレゼントしてくれて。
大学での虫除け用だ、と大真面目に私の指に嵌めたのを、笑って受け入れたのはまだつい最近の出来事だ。
この指輪が傷だらけになって、少し光が鈍くなる頃には、正式なものを交換するようなことになったりしているのだろうか。
自分の指に嵌められた指輪を撫でながら、先生の横顔を見る。
どうした?と声を掛けられて、何でもないわ、と笑った。
赤信号で車が止まった時、先生の腕が伸びてきて。
「キス、していい?」
触れるか触れないかの位置で先生が私を見つめる。
「いいよ」
ゆっくりと目を閉じて先生のキスを受け入れる。
触れるだけなのに甘いキス。
素直に受け入れられるようになったのは、先生とちゃんと恋人になったから。
怖がってばかりだった私に教えてあげたい。
その恋は怖がらなくても大丈夫。
勇気を出して一歩前に踏み出せば、驚くくらいに素敵なものが手に入るわって。
弾けた恋心はどす黒い汚れた色になると思っていたけど、実際はとても綺麗で鮮やかな色だった。
きっと私の気持ち次第で明るくも暗くもなるんだろう。
恋はいつでも変化する。
ならば明るい色を保てるように、先生と一緒に歩いていきたい。
「センセ」
「なんだ?」
発進した車を滑らせながら、先生は前を向いたまま優しく笑う。
「大好きよ」
私を選んでくれて、ありがとう。
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