プロポーズ大作戦!!! - 9/11

「薫ちゃん、葵ちゃん」

 あれから自分が何日もお風呂に入っていなかったことに気付いて、食事も摂っていない状態で危険だとは思ったけれど、急いでお風呂に入って身体を綺麗にした。それから身支度を整えて、軽く食事を摂って、水分補給もして、最低限の状態に自分を整える。久し振りに開けるクローゼットは何だか眩しくて、どの服にしようか迷ったけれど、やり直すという気持ちも込めて、あの日着ていたワンピースを選んだ。

「……心配掛けて、ゴメンね」

 リビングに集まっていた二人に、何とか笑顔を作って謝罪の言葉を口にする。どうしても寄ってしまう眉はハの字の形をしていて、何とも頼りない顔になってしまった気がするけれど、精一杯前を向いて二人に笑いかけた。

「紫穂ッ」

 葵ちゃんが泣きそうな笑顔で私に駆け寄ってくる。葵ちゃんらしい優しい抱擁を受け止めて、葵ちゃんの肩に顔を埋める。

「ゴメンね、葵ちゃん」
「ホンマや! めっちゃ心配したんやから!」

 私をぎゅうと抱き締めてから、身体を離してまっすぐに私を見つめてくる葵ちゃんの目尻にはキラリと涙が光っていて。私もつられてじわりと目頭が熱くなった。

「……紫穂」
「……薫ちゃん」

 薫ちゃんは眉を寄せてじっと私を見つめていて。私はできるだけの笑顔でそれに答えた。

「薫ちゃん、本当に心配かけてごめんね。もう大丈夫」
「……大丈夫、ってことは、紫穂、覚悟決めたんだね」

 まっすぐに問いかけてくる薫ちゃんに深く頷いて笑いかける。

「ええ。まだ、間に合うのなら。私、私ね」
「充分だよ、紫穂。全部言わなくてもわかってる」

 硬い表情を見せていた薫ちゃんが、まるで太陽みたいに眩しく笑って。ふわりと私の手を取った。

「行こう。もうすぐ皆本が手配してくれたタクシーが来るはずだから」
「うん。ありがとう、薫ちゃん。大好きよ」

 じわりと浮かんでくる涙を拭いながら笑うと、薫ちゃんもぎゅっと私を抱き締めてくれて。

「本当に心配したんだからねッ! ちゃんと先生のこと連れ戻さないと絶対許さない!」

 そう言ってぎゅうぎゅうと力一杯に抱きついてくる薫ちゃんの背中に手を回して、ごめんね、と呟く。二人でぎゅっと抱きしめ合っていると、インターホンの音が響いて、タクシーが到着したことを告げた。

「行こ! はよ行かな間に合わんくなってまう!」

 葵ちゃんの呼び掛けにバタバタと玄関に向かう。急いで靴を履いて戸締りを確認してタクシーに乗り込んだ。

「行き先は国際空港でよろしかったですか?」
「はい! できるだけ急いでください! お願いします!」

 運転手さんにせっつくように返事をして、車が発進するのを今か今かと待つ。車体が滑り出したのにほっとして、シートに背中を預けた。

「あーもう! こんな時にテレポートが使えないなんて!」
「しゃあない。空港は任務でないとESP使われへんねんから」

 もどかしい気持ちを隠しきれないとでも言うように、薫ちゃんは足をバタつかせている。それを宥めている葵ちゃんも、どこかじりじりとした雰囲気を漂わせていて。その間で、もうただひたすらに間に合うことだけを祈って、目を瞑った。
 タクシーは空港を目指して走っていく。運転手のおじさんも私たちの鬼気迫る気配を感じてくれているのか、スムーズに走れる道を選んで空港へと向かってくれているようだった。

「皆本ハン、ギリギリまでチェックインカウンターで粘ってくれはる言うてたけど、もう搭乗手続き済ませてもうたやろか」
「飛行機の時間考えると、そろそろ限界、かな?」

 葵ちゃんと薫ちゃんが時計を見ながら会話をしている。私はそんな二人の様子を見ながら祈るように手を組んでいた。空港はもうすぐそこで、窓から風景の一部となって目に入ってくる。タクシーが国際線のゲートへ向かうロータリーへと入って、流れるように停車した。葵ちゃんが身を乗り出すように財布を出して料金メーターを見ながら叫ぶ。

「おっちゃんアリガトウ! 運賃、いくら?!」
「薫ちゃん私先行くわ!」
「えっ?! ちょ、紫穂!!!」

 薫ちゃんの呼び掛けにも振り向かず、タクシーから飛び出して入口に向かって走る。葵ちゃんと薫ちゃんの様子も気遣わずに、開きかけた自動ドアに身体を滑り込ませて国際線のチェックインカウンターを目指した。ずっと引きこもっていたのがここにきて足を引っ張っている。すぐに上がってしまう息を整えながら必死になって先生と皆本さんの姿を探した。せめて航空会社だけでも二人に聞いておくべきだった。普段なら考えられないような自分の考え無しの行動に眉をしかめる。

「ッ、ハァッ、ハァ……見当たらないッ……」

 自分が先生の姿を見逃すはずがないと信じて、三六〇度必死になって辺りを見回す。もうチェックインは終わってるのかもしれないと出国審査ゲートの方へと足を向ける。人を掻き分けて進みながら見間違えるはずのない姿を探して審査ゲートの入口を目指す。人の波に呑まれそうになりながら何とか首を延ばして前の方を見ると、探し求めていた姿が視界の端に写って、思わずそちらに向かって腕を延ばした。

「スミマセンッ! ちょっと通してくださいッ」

 人の混雑を押し退けて身体の向きを変えて。ダッと目的の方向へ向かって最後の力を振り絞って足を前に繰り出す。

「……先生ッ」

 呼び掛けられてピクリと反応を見せた背中に、力一杯叫んだ。

「修二ッ!!!」

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