プロポーズ大作戦!!! - 6/11

 次の日、バベルで会えるだろうと暇を見つけては紫穂を探してバベル内を彷徨いていた。昨日の今日で、とてもじゃないが紫穂が話を聞いてくれるとは思えない。それでも、とにかく会って話をして、せめて誤解だけでも解きたかった。

「クソッ……なんで何処にも居ねぇんだよ」

 空き時間にバベル中を歩いて探し回ったのにどうしても見つけられない。痺れを切らして紫穂を探し出す為だけにこっそり解禁してバベルの敷地内全部をトレースしていく。

「……マジでどこにも居ねぇのかよ」

 地下の駐車場から立ち入り禁止の屋上まで丁寧に透視ていって、うんざりした声を上げる。まさかの結果にガッカリして仕方なく自身の研究室を目指した。どうしたものか、とトボトボ廊下を歩いていると、俺の研究室の前に、薫ちゃんと葵ちゃんが佇んでいるのが見えて声を掛けた。

「どうした? 二人とも。何かあったのか?」
「先生! 待っとったんや!」
「紫穂が! 紫穂がッ!!!」
「どうした?! 紫穂に何があった!!!」

 切羽詰まった様子で俺に駆け寄ってきた二人を落ち着かせながら声を掛けると、顔を蒼くした二人がわたわたと答えた。

「紫穂が部屋から出てこなくなっちゃったの!!!」
「食事もまともに摂らへんねん! 部屋には入れてくれるから様子は見れるんやけど、ずっとボーッとしてて心ここに在らずなん!」

 二人とも目にうっすらと涙を溜めて、俺に助けを求めるように次々に言葉を繰り出してくる。その必死さに状況のマズさを察知して、二人を研究室の中に入るよう促してからもう一度話を聞く為に来客用のソファに三人で腰掛けた。

「紫穂、体調崩してるのか?」
「体調崩してるっていうか……とにかく変やねん! 何話し掛けても腑抜けた返事しかせぇへんし、覇気がないって言うたらええんやろか」
「とにかくいつもの紫穂からは考えられないくらい元気がないの! 私たちじゃどうしようもできなくて……」
「……皆本には報告したのか?」
「皆本ハンには朝イチで連絡したんやで? そしたら皆本ハン、すぐに紫穂の様子見に来てくれたんやけど、部屋に閉じ籠ってしもて……」
「どんなに呼びかけても部屋から出てこなくなっちゃって……皆本が賢木先生に声掛けてみろって。だから紫穂を置いて私たちだけでバベルに来たの」

 先生助けて! と声を揃える二人に圧されながら、どうしたものかと思考を巡らせる。まさか紫穂が部屋に引きこもっているとまでは予想しておらず、その事実に対する衝撃が大きくて。怒って口は聞いてもらえないだろうくらいには思っていたが、まさか紫穂がそこまで落ち込んでしまうとは想像もできていなかった。

「……わかった。取り敢えず仕事が終わったらすぐに紫穂の様子見に行くよ。定時には必ず上がるようにするから、それまで紫穂についててやってくれ」

 今日はこの後診察が数件入ってるだけだから、急患さえなければすぐに明石邸に向かえるはずだ。

「遅れるようだったらすぐに連絡する。紫穂の様子に変化があったらできれば逐一連絡くれ」

 携帯は気にしておくようにするから、と続けると、頼りなげだった二人が深く頷いてこちらを見つめてくる。不安を取り除いてやるように、大丈夫だと笑い返して二人を部屋から送り出した。
 紫穂が意気消沈している、なんて、想定外にも程がある。診察を予定している患者のカルテをデータベースから探し当てながら、落ち着かない自身を深呼吸で無理矢理鎮めていく。
 こんな時、自分がテレポーターならすぐに紫穂の元へと駆けつけて、抱き締めてやることだってできるのに。でも、今の紫穂には抱擁すら拒絶されてしまうかもしれない。顔すら合わせてくれるかどうか。昨日のことがあった後だから、俺なんて要らない、と拒絶される可能性だってある。もし、実際にそうであれば、心底俺が嫌いになるように仕向けて俺のことなんて忘れてしまえるように持っていけばいい。でも、それじゃあ次の恋に進む時に弊害がでてしまう。できる限りきれいな形で俺たちの関係を終わらせなければならない。ふぅ、と落ち着かない考えに溜め息を吐いて、患者が待っているであろう診察室へ端末と自分の携帯を持って急いだ。

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