とっておきのプレゼント(おねガキ編) - 2/2

「HAPPY BIRTHDAY TO YOU~」

 軽やかなメロディと共にやってきた、時折ガサリと動く正体不明の袋。

 薫ちゃんと葵ちゃんと悠理ちゃんが、手拍子をしながらバースデーソングを歌い終えて、おめでとう紫穂! と何処から出してきたのかクラッカーを鳴らした。ありがとう、と答えながらも中身が気になって仕方がない不穏なプレゼント。少しだけ頬が引き攣ってしまうのは仕方がない気がする。だって、クラッカーの音に反応してビクリと動いてから、全く動かなくなってしまった。何コレ。一体何が入っているの?

「今年のプレゼントはちょっと趣向を変えてみました!」

 楽しそうに告げた薫ちゃんを見ながら、少しだけうんざりした溜め息をひとつ。

「どうやらそうみたいね」
「そんな顔しないでよ。絶対喜ぶハズだよ!」
「せやせや。ウチらほんま真剣に考えたんやから」
「いやでもこれ、どう見たって怪しいでしょ」

 そう言って目の前に置かれた袋を指差すと、てへ、と薫ちゃんが笑って誤魔化した。

「まぁまぁ、危ないものじゃないから! 開けてみてよ!」

 ワクワクした表情で袋に巻かれたリボンを解くように促してくる薫ちゃんに負けて、そっとリボンを摘んだ。そこから何か透視み取れるかと思ったけれど、何故かESP対策は万全なようで、中身の情報は透視み取れない。何なのこの念の入りようは。仕方ない、とリボンを引っ張ってするりと解くと、ふわりと袋の口が開いてバッと中から何かが飛び出してきた。

「きゃっ」

 驚いて身を引くと、両手を万歳の形で伸ばした男の子が立っていて、私に向かってニコリと微笑んだ。

「じゃーん! おねーさんが今から俺と遊んでくれる人?」
「……は?」
「俺、賢木修二! 小学六年生!」

 ヨロシク! と元気よく叫んで、握手を求めてくる。あまりの展開に呆気に取られてしまって、開いた口が塞がらない。目の前でにこやかに微笑む男の子は固まってしまった私を気にせず私の手を取って両手で包み込んだ。

「いやー、聞いてた通り、本当に美人だね! お名前教えてよ! 俺と仲良くなろう?」

 私の手をさわさわと撫で回しながら、ぐいぐい圧してくる勢いに負けて後ろに身を引いてしまう。顔を引き攣らせて三人を見遣ると、苦笑いをしながらこちらを見ていた。

「……賢木くん、ちょお落ち着こっか。おねぇさん困ってはるからな」
「あ! ゴメンゴメン! 俺、美人にはどうも弱くてさ……」
「賢木先生って子どもの頃から変わんないんだね……まぁいいや。紫穂、説明するね」
「あの、実は、この子は私の催眠が掛かった賢木先生本人なんです」
「はぁっ!?」
「いやー、紫穂、この前、先生ばっか大人でムカつく、って言ってたじゃん。だから、逆を体験させてあげようと思ってさ」
「なので、私が催眠を掛けて、賢木先生には小さくなっていただきました」
「記憶も小六に戻ってしもたみたいやから、めっちゃ美人のおねぇさんに会えるから待っとき、言うて袋の中で待機してもらっててん」
「絶対好みのタイプだから後悔させないよって先生には説明しといたから!」
「催眠は多分、三時間くらいしか保たないと思います。賢木先生も高超度エスパーでいらっしゃるので……」
「じゃ、そういうわけだから! 私たちはこれで退散するね!」

 お二人でごゆっくり~、と三人は出ていってしまった。残された私は固まったまま、先生(少年)を引き攣った表情のままで見つめていた。すると先生(少年)は照れたように笑って頭を掻いた。

「そんなに見つめられると照れちゃうよ……っていうかマジで超俺好みなんだけど」

 ふわりと笑って小首を傾げる仕草は今の先生をどこか匂わせて。ドキリと心臓が跳ねた。

「ねぇ? 俺にお名前教えてよ、綺麗なおねーさん?」
「……さ、三宮紫穂、だけど」
「へぇ。三宮紫穂さん。素敵な名前だね?」

 目を細めて私を見つめ返してくる先生(少年)は、とても小学生とは思えない色気を振り撒いて私に一歩近づいた。

「紫穂おねーさん、って呼んでいい?」

 上目遣いに私を見てくる先生(少年)の勢いに負けてしまいそうになっている自分を自覚して、ぎゅっと目を瞑って自分を叱咤した。ダメダメ! いくら先生でも、相手は小学生なのよ! 子どもに惑わされるなんて有り得ないわ!

「それとも……紫穂チャン、って呼んでいい?」
「ッ! だ、ダメよッ……あなた、私より歳下なのよ!」
「修二クンって呼んでよ、紫穂チャン?」

 ニッと口角を上げた修二クンに見つめられて、ドキドキと煩い心臓をそっと服の上から撫で付けた。

「……紫穂お姉さんって呼びなさい、修二クン」

 クッと睨みつけるように見返すと、眉毛をハの字にして修二クンは困ったように笑う。

「じゃあ、紫穂おねーさん? 俺と一緒にお喋りしない?」

 私の両手を取って有無を言わさない様子の修二クンにソファまで導かれてストンと座らされる。ニコリと笑った修二クンは私の手を取ったまま私の横に座って、ほぅ、と感嘆するように溜め息を吐いた。

「本当にカワイイね、紫穂おねーさん……」

 油断すると手を伸ばして触れてきそうなのを何とか回避して、ニコリと笑顔を張り付けて答える。

「アリガト。よく言われるわ」

 そうこれはよく言われる台詞。だからこんな年下の子に言われたからってドキドキしてる場合じゃないのよ私! 繋いだ手を愛おしむように撫でる修二クンから何とか手を取り返そうと引っ張ってみても、なかなか大人しく離してはくれなくて。こんな頃から先生はプレイボーイだったのね! と心の中で叫びながら笑顔を崩さないようにして修二クンに告げる。

「修二クン、そろそろ手を離してくれないかしら?」
「……どうして?」
「だって、手を繋いでいなくても、お話はできるでしょう?」

 そう言った私をきょとんとした目で見つめ返して、ビックリするくらい妖艶に微笑んだ修二クンは、そっと私に近づいて内緒話をするように耳許に口を寄せた。

「俺、サイコメトリーが使えるんだ。だから、紫穂おねーさんのこと、触れて感じていたいんだ」

 ダメかな? と私に迫りながら微笑みかけてくる修二クンに、思わず頷きそうになる自分を奮い立たせてふるふると首を振って抵抗する。

「だ、駄目よ……私だってサイコメトリーが使えるんだから、私のこと修二クンには透視めないわ」
「うそ、そうなの? 俺たち似たもの同士だね?」
「いや、そういう話じゃなくて……お願い! 離れてッ」

 グッと修二クンの肩を押し返して身体を離すと、修二クンは仕方なさそうに離れていって、また私を上目遣いに覗き込んだ。

「真っ赤になっちゃって、カワイイね」

 そのまま繋いだ手の甲にちゅっとキスを落とした修二クンは、ニコリと微笑んでゆっくりと顔を近づけてくる。

「え、や、ちょっと待って!」

 ぎゅっと目を瞑って次に来るであろう衝撃に身構えていると、クスリ、と修二クンの笑い声が聞こえて。恐る恐る目を開けるとニヤニヤと笑う修二クンと目が合った。

「……何されると思ったの?」
「え……あ……」
「やらしーんだ? 紫穂オネーサン」

 にやりと弓型に細められた目が私を射抜く。それに、かぁぁぁぁッと頬が赤くなるのを感じた。キッとできるだけ目に力を込めて修二クンを睨み返す。
 だって仕方ないじゃない。目の前にいるのは先生本人で、こんな風に迫られるのは日常茶飯のはずなのに、いつもと違う幼い顔がそこにあって、触れてくる何もかもがいつもと違う。こんなの、ドキドキするなと言われる方が無理難題だ。

「……修二クンこそ、歳上を馬鹿にして、イケナイ子ね」

 今からでも遅くない、と精一杯形勢逆転を狙おうと威勢を張る。こうなったら歳上の意地だ。負けたままじゃいられない。何としても握られてしまっている主導権を私の手に取り戻さなくては。ツ、と修二クンの顎先を指で撫で上げて微笑みかける。修二クンはそれをうっとりと魅入るように見つめ返してきて。私は勝ちを確信してふふん、と挑戦的に笑った。すると修二クンはギュッと目を瞑りながら嬉しそうに微笑んだ。

「もーホント最高! 可愛くて美人でしかも大人の女とか超最高!!!」

 喜びに打ち震えるように修二クンは身を縮めて身体を抱き締めている。そしてカッと目を見開いたかと思うと、私の両手を取って身体を引き寄せるように身を乗り出した。

「好き! 俺と付き合わない?!」
「ハァッ?!」

 いつもの先生とは違う反応に、調子狂う!!! と心の中で叫びながら、何とか迫ってくる修二クンから身を守ろうと後ろに退く。ねぇねぇと未だ身を乗り出してくる修二クンの肩を何とか押し返しながら必死に抵抗した。

「なんで私が修二クンと付き合わなきゃいけないの?! そもそも修二クン私より歳下じゃない!!!」
「歳なんて関係ない! 出会ったその日が運命!!!」
「何それ本当に意味わかんないんだけど!!!」
「とにかく俺と付き合ってみてよ! 俺、後悔させないよ?!」
「ちょっと待って! 本当に落ち着いて!!!」
「やだやだ俺と付き合ってくれるまで紫穂おねーさんのこと諦めない!!!」
「だから! その前に私付き合ってる人いるから!!!」

 わーっとなって叫ぶと、シンと急に静まり返ってしまって。恐る恐る修二クンの様子を窺うと、心底悔しそうに顔を歪めてグッと黙り込んでいる。取り敢えず難は逃れたようだとホッと胸を撫で下ろすとやっぱりまだ諦めがつかないのか修二クンはめげずに叫んだ。

「じゃあ俺と浮気しよ! 紫穂おねーさん!!!」
「はァァァァッ!?」

 なんなの! 一体どうして私は小学生と浮気しなきゃいけないの? そもそも付き合ってるのは大人の貴方自身なのよ! どうして私がこんな小学生相手に翻弄されなきゃいけないのよ!!! と心の中で口にできない文句を並べ立てる。付き合う付き合わない以前に、もう付き合っているけれど小学生相手に付き合えないわ! とキッと修二クンを睨み返す。

「浮気するつもりもなければ、そもそも小学生となんか付き合えないわ!」

 カッとなって叫んだ言葉に、修二クンは目をパチクリとさせて私を見つめ返してくる。それからニヤリと口元を歪めて悪そうに笑った。

「俺、来年には中学生だよ? 何もかも黙ってりゃバレないって」

 ククッと笑う修二クンに、この腹黒~ッ! と心の中で思い切り叫ぶ。でも、この修二クンが間違いなく今の先生に繋がっているとも確信できて、妙に納得してしまった。この頃からこれだけの手練手管で女の子を引っ掛けまくっていたんだとしたら、大人になった先生の女好きが皆本さんに病気と言われるのも頷ける。それでも、と、何とか気を取り直して修二クンに告げた。

「私は浮気なんてしないの。バレたら面倒だもの」

 それは大人のあなたが身をもって教えてくれてたじゃない、と小さく溜め息を吐いて心の中で呟くと、まだまだ諦めきれないのか修二クンは悔しそうに眉を歪めてイヤイヤをした。そういうところは子どもっぽくて可愛いのに、発想が腹黒い大人で何だかおかしくなってくる。

「ね、だから私のことは諦めて?」

 優しく言い聞かせるように告げると、諦めがついたのか、修二クンは乗り出していた身を退いて、クッと眉を寄せた。そうそう、小学生相手にどうこうなんて、いくら中身は大人の先生だとは言ってもホント犯罪もいいとこだわ、と一人納得していると、修二クンは私の手をきゅっと握ってゆっくりと口を開いた。

「……わかった」
「わかってくれて嬉しいわ」
「……わかったから、そのかわり」
「そのかわり?」
「そのかわり、俺とキスして! そしたら大人しく諦める!」
「えぇぇッ?!」
「キスしてくれたら諦めるから! 俺の一生の思い出に、キスしよう!!!」

 修二クンは私の手を解放したと思ったらガッと肩を掴んできて。ぐぐっと顔を近付けてきた。

「ちょっと待って! 落ち着いて!!!」

 精一杯身を引いて逃れようとしてもソファの背凭れのせいでこれ以上は下がれない。修二クンもそれがわかっているのか、ニヤリと口元を歪めて私を射抜いた。

「もう諦めなよ」

 そう呟いた修二クンはふわりと笑って、私の膝に跨がってそろりと頬に手を添えた。

「いや、ちょっと待って」
「黙って、紫穂」

 そう言う修二クンの表情が、先生とダブって見えて。ゆっくりと近付いてくる口付けを受け入れてしまっていた。普段の先生の声の低さとは全然違う子どもの高い声なのに、耳からゾクゾクと犯されて、触れるだけのキスが繰り返し降りてくる。ちゅ、ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて修二クンはキスを重ねていく。ぎゅっと目を瞑り身を固くして受け入れていた私も、その柔らかいキスに次第に力が抜けていって。固く引き結ばれていた唇が綻んで、甘いキスを受け入れるしかなかった。だって、どうしたって相手は先生なんだ。抵抗できるわけがなかった。それにしたって、小学生のクセになんでこんなにキスが上手いのよ! と心の中で叫びながら修二クンの背中にゆるゆると手を回すと、ニッと修二クンが口角を上げたのがわかる。ふと唇を解放されて、ほ、と息を吐くと、至近距離で熱っぽく見つめられて。先生と同じ鷲色の目にドキドキと心臓が煩かった。恥ずかしくて少しだけ目を伏せると、修二クンは、ふ、と大人っぽく笑ってまたゆっくりと近付いてきた。今度は抵抗せずに素直に受け入れてしまった自分の愚かさを心の中で嘆いていると、柔く下唇を食むように啄まれて、ごく自然に口を開いて修二クンの舌を受け入れてしまう。私の知っているキスよりも柔らかいそれは、くらくらと私の頭の芯を刺激して、もう何もかも考えることを放棄してしまった。優しくそっと撫でるように口の中を愛撫されて、トロトロに溶かされていく。修二クンの背中に這わせた指にきゅっと力を込めると、は、と息を吐いてゆっくりと修二クンは離れていった。

「……しちゃったね、キス」

 ふふ、と嬉しそうに笑うその顔はどこからどう見ても子どもなのに、キスはどう考えたって子どものキスじゃなかった。何なのよ一体! この頃から先生は女の子とそういうことばかりしていたっていうの?! 上がってしまった息を何とか整えながらキッと修二クンを睨み付ける。

「あなた本当に小学生ッ?! なんでこんな……」

 キスが上手いのよ、とはどうしても言えなくて、睨み返すことしかできない。修二クンはそれを嬉しそうに笑って受け止めて、ぎゅっと抱きついてきた。

「キス、上手だった? 俺、キスなんて初めてだから……」

 修二クンの爆弾発言に、ぎょっとした目を向ける。これで初めてだって言うのッ?! 先生の女好きは天性ってことッ!? 頭を抱えたくなる発言にクラクラしていると、修二クンは上目遣いに私を見て言った。

「ねぇ、キスって気持ちいいんだね。もう一回しようよ」

 ニ、と微笑むその顔は、もう子どもには見えなくて。これ以上は駄目だと私の中で警笛が鳴り響いた。

「もうダメ! もう充分思い出になったでしょ!!!」

 近付いてくる修二クンの口元を両手で押し返して必死に顔を背けて抵抗する。でもここはさすが男の子というか、力ずくでグイグイと私に迫ってきた。

「いーじゃん! 一回も二回も変わらないって!」
「ダメったらダメ! もう諦めて!!!」
「諦めきれないよこんなん!!! 紫穂は俺の運命の人なんだ!」
「そんなこと言ってもダメったらダメ!」

 子どものクセにこのタラシ! と心の中で叫びながら力負けしないよう踏ん張り続ける。すると修二クンはふっと力を抜いて一瞬私から距離を取った。力が抜けてホッとしたその瞬間を狙って、修二クンは私の手首を捕まえてソファの背凭れに押し付けて。そのまま覆い被さるように身体を乗り上げてきて、抵抗を押さえ込まれる。

「ひ、卑怯よ!!!」
「欲しいモノを手に入れるのに、ちょっと頭使っただけじゃん。卑怯も何もないよ」
「このマセガキッ」
「そのマセガキのキスで気持ちよくなっちゃったクセに」
「なッ!!!」
「ね、大人しく俺のモノになって……」

 ニ、と笑って首を傾げる様は本当に子どもとは思えなくて。目の前にいるのは先生のハズなのに、何だか本当に修二クンと浮気しているような気分になってきてしまっていけない。ゾクゾクと背中を駆け上がる背徳感に震えていると、熱の籠った目で見つめられて、余計に背筋が痺れた。

「修二、クン……」
「好きだよ、紫穂……」

 小さく呟かれたその言葉に、ドクンと心臓が震える。あぁ、もう、抗いきれない。ゆっくりと顔を近付けてくる修二クンに、ふるふると震える瞼を落ち着けながら目を閉じる。先生とキスする時みたいに身体から力を抜いて、じっと唇が触れ合うのを待つ。相手は小学生なのに何を欲情しているんだと思わずにはいられないけれど、いつもの先生とのキスとは違う修二クンのキスをもう一度味わいたくて、これじゃあもうホントに浮気だなと思い至る。なかなかキスしてくれない修二クンに焦れて、おかしいなと薄く目を開くとぽすり、と修二クンが倒れ込んできて。え、と修二クンの顔を覗き込むとすやすやと眠ってしまっていた。

「え、寝落ち……?」

 嘘でしょ? と思わず時計を見ると、皆が部屋から出て行って丁度三時間が経とうとしていて。ずしり、と急に身体に掛かってくる体重が重くなったのと同時に、修二クンの姿が先生に変わる。先生の大きな身体に圧し掛かられて身動きができなくなってしまったのを何とか背中を叩いて叩き起こす。

「ちょっと! センセ! 起きてよ! ねぇってば!!!」
「……んー……ん?」

 ぱかり、と目を開いた先生がハッと驚いた顔をして私から退いた。

「え? なんで紫穂? つーか俺、一体……」

 きょろきょろと周りを見回して不思議そうにしている先生を下から蹴り上げて、涙目で睨み付ける。

「ぐほッ! いてぇッ! 何する」
「……先生のバカッ!!! 私のときめきを返してッ!!!」
「はぁっ!?」
「先生なんか……先生なんか、大っ嫌い!!!」

 もう一度、バカ! と叫んで部屋を飛び出す。先生に呼び止められていた気はするけれど、構わず廊下を走った。
 何もかも先生のせいだ。小学生にときめいてしまうなんて。しかも、小学生からのキスを心待ちにしてしまうなんて! 顔に熱が集中するのも気にせずに、目尻に溜まった涙をぐいと拭う。後ろから追いかけてくる先生に捕まるわけにはいかない。先生に追いつかれてしまわないよう、私はその日、バベルの建物中で先生との追いかけっこを続けた。

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