夢の中へ - 2/5

「君らは、一番に見るべきお互いが透視(み)えてないんだよ」
眠りに就いた賢木を横たわらせながら語りかける。
「何故、使える力を全部使ってでも手に入れようと貪欲にならない? 失ってからでは遅いって誰かから教わらなかったのか?」
言葉が返ってこないとわかってはいても、話しかけることをやめられなかった。
「お互い、唯一の例外なんだ。そんなの、どれだけ取り繕ってみせたって、意識せざるをえなくなるさ」
それでも手を取り合おうとしないのは、二人の若さのせいなのか。
「さて、見学させてもらおうか。君らの運命の絆とやらをね」
賢木を透視して、順調に記憶の操作が進んでいることを確認する。そこに丁度タイミングよく賢木の携帯が鳴った。
発信元の名前を見て、ふっと笑いながら端末を耳に当てた。
「……もしもし、賢木?」
「やぁ、久し振りだね。皆本光一」
電話越しに、皆本のひゅっと息を呑む音が耳に届く。相手の次の反応を先に予測して、端末を耳から離した。
「どうして賢木のプライベートの電話にお前が出るんだ! 兵部ッ!」
予想通り、奴らしい叫び声に笑いながら、端末を耳に当て直して揶揄うように電話の向こうに語りかけた。
「随分なご挨拶だな。今ヤブ医者は電話に出られない状態でね。僕が側にいるから代わりに出たまでの話じゃないか。連絡が取れなかったらお前たちが心配するだろう?」
「……お前、今、一体何処にいる?」
「ヤブ医者の住まいさ」
そう伝えた途端、通話がブツリと荒っぽい音を立てて切れる。
ふっと笑いながら彼等の到着を待っていると、ガチャリと玄関の方で音がして、パタパタと複数の足音が聞こえてきた。
「お早い到着な上に玄関から入ってくるとは、ご丁寧なことだな」
「何故お前がここにいる? 兵部京介ッ」
「……賢木先生ッ」
叫んでいる皆本の横をすり抜けて、女帝(エンプレス)が一番に賢木の状態に気付いて駆け寄ってくる。
その慌て様に、思わず、やはりな、と呟きそうになりながら、不敵に笑ってみせた。
賢木は自分を運命の外側だと思っているみたいだが、君らには君らの運命の歯車が存在する。
それがこれから、一体どの分岐の未来に繋がるのか、見せてもらおうじゃないか。
賢木を揺すって起こそうとしている女帝(エンプレス)に向かって、ゆっくりと告げた。
「あと二十四時間で、賢木の記憶は完全に消える。とは言っても、一部だがね」
「お前ッ! 一体賢木に何をしたッ!」
「パンドラへの招待状を渡しただけさ」
「なッ! 賢木がパンドラになんか行くわけ」
「……記憶の一部を消して、パンドラの構成員として育て直すつもりね」
皆本の言葉を遮るように、女帝(エンプレス)が静かに僕に向かって言葉を投げた。
強い視線で僕を睨みつける女帝(エンプレス)と視線が絡む。
いいね。いい表情をするようになった。
君がどれだけの力を持って運命に抗うのか、お手並み拝見といこうか。
ニヤリと口元を歪めて、ひらひらと手のひらを振った。
「次にヤブ医者が目覚めたら、迎えに来るよ。パンドラの一構成員として、ね」
待て、兵部! という叫び声を無視して、ヴヴン、と力を発動させる。
賢木のマンションの屋上へと移動して、部屋の様子を透視する。すると、もう慌てた様子なんてなく、冷静に状況を調べようとしている女帝(エンプレス)が透視(み)えて、クスリと笑みが溢れた。
健闘を祈るよ、禁断の女帝(アンタッチャブル・エンプレス)。
マンションの天井を蹴るようにしてもう一度力を発動させて、暗い闇へと身を溶かした。

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください