「スミマセン。お会計お願いします」
「承知致しました。少々お待ちくださいませ」
店員さんが会計伝票を取りに下がってすぐ、自分の財布を取り出した。
「……なぁ、いい加減俺に全額払わせてくれねぇか?」
「イヤよ。奢られる理由がないもの」
先生との取り決め通りの金額をそっとテーブルに置いて差し出す。
「だから俺が奢る理由は山ほどあるって」
「そのどれもに私は納得できないから二人でルールを決めたんでしょ?」
「……そうだけどさぁ」
ぶつぶつと不満を口にしている先生は渋々自分の財布に私が出した紙幣を納めながら、会計伝票にカードを載せて店員さんに差し出した。
先生はまだかなり不満みたいだけれど、無理矢理納得させて、二人で食事する時の会計は何とか今の形に治まっている。
飲み物代は全額先生持ち。食事分を六対四で割って四割を私が払う。これもお酒を飲み始めるまでは元々食事代を七対三で割っていたのを、お酒代は俺が払うと言って譲らなかった先生に無理矢理条件を呑ませる形で割合を変えてもらった。
先生は自分の方が年上だとか、男だからとか、先生の方が稼いでいるからとか、いろいろと理由を並べ立てて抵抗したけど、彼女でもないのに奢られるなんて私には理解できなかったし、金銭面で先生に甘えたくなかったから、頑固とか我が儘とか言われようと首を縦に振らなかった。意地でも自分の意思を変えようとしない私に最終的に先生は折れてくれたけれど、今でもこうして時折私の様子を見てはルールの変更を申し出てくる。
「私は食事を楽しむためにここに来てるのよ。その対価を払ってるんだから拒否しないでほしいわ」
「……そうなんだけどさぁ……年下の女の子に食事代出させてる俺の気持ちも考えてよ」
「……じゃあ私と食事するの、止めちゃえばいいじゃない。どうせ先生のこと待ってる女の人はいっぱいいるんでしょ?」
「……そういう話じゃねぇんだよなぁ」
わしわしと頭を抱えるように掻いた先生は、会計処理から帰ってきた店員さんからカードリーダーを受け取って暗証番号をポチポチと入力しながら唇を尖らせている。ピー、と決済終了の合図が流れて、先生はカードリーダーからカードを引き抜いた。
「なんで君とは堂々巡りになっちまうのかなぁ、この話」
先生はカードを財布に仕舞いながら店員さんからカードの明細とレシートを受け取りつつ、はぁ、と肩を落としている。それは多分、先生のこの時間に対する位置付けと私の位置付けが一致してないからよ、と心の中で呟いて、にこりと微笑みかけた。
「それでも、先生の方がたくさん払ってくれてるし、いつもお礼は言ってるわ。今日も御馳走様でした」
深々と頭を下げながら言うと、先生は気まずそうに肩を竦めてどーも、と呟いた。
星屑キラリ - 4/14
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