「…こりゃアデノウィルスだな」
今めっちゃ流行ってるらしいからなぁ、と先生が言うのをボーッとした頭で聞いていた。
確かに、今、クラスの欠席者が多い気がする。
サラサラとカルテに診察内容を書き込んでいく先生をぼんやりと見つめた。
お昼頃から上がって来た熱は、私の思考力を確実に奪っていて。
抵抗することもなく、大人しく、先生にされるがままになっている。
「感染力高ぇから…君らの状況考えると大袈裟だが入院するのがベストなんだけど。」
どうする?と聞かれても、頭がぐらぐらしていて上手く回ってくれない。
葵ちゃんも薫ちゃんも、私を早退させてから、すぐに学校に戻ってしまった。
流石に熱で早退のあとにデコイで代理はおかしいと松風君が指摘して、素直に私一人だけ早退したんだっけ。
「紫穂ちゃん、大丈夫か?…っつって、熱でボーッとしてる感じだな」
アデノは高熱出るからなぁ、と先生が私の額に手を当てる。
先生の手が冷たくて気持ちいいだなんて、思ったことがないのに。
今は私の体温が上がってるからそんな風に感じるのかしら。
「取り敢えず皆本呼ぶわ。薫ちゃんの風邪のときとはちょっとワケが違うし」
先生はすぐに携帯を取り出してどこかに電話を掛けている。
あー、クラクラする。
横になりたい。
そんな風に考えていたら、身体がフワッと揺れて椅子から落ちそうになった。
あー、ヤバイ、倒れるかも、と思っていたら、ガシリと力強い腕に支えられて。
「とにかく、すぐ来てくれ。対応を話し合いたい」
電話中の先生が、腕を伸ばして私の身体を支えてくれている。
ふ、と顔を上げると先生と目があって。
『こりゃ相当参ってんな』
え?と耳を疑う。
電話中なのに、なぜ声が聞こえるの?ピッ、と通話を終わらせた先生が、ん?と首を傾げて私を覗き込んでいる。
「大丈夫か?」
「…だい、じょうぶ、じゃ、ない」
ぐったりと、先生に身体を預けて何とか呟く。
「だよな。ちょっと我慢しろよ」
膝裏に腕を入れられて、よっ、と抱えあげられる。
『うわ、軽っ。ちゃんと食ってんのか?』
また、だ。
喋ってないのに、先生から声が聞こえてくる。
診察用のベッドにそっと横たえられて、上掛けが掛けられた。
(オーガニックコットン100%、パイル織…)
何もしていないのに、頭が勝手に情報を拾っている。
これって、まさか。
先生がもう一度額に手を当てて、力を発動させた。
「…あー、ひょっとして、もう始まってる?熱暴走」
やっぱり。
自分の意思とは関係なく、透視み取っているのね。
先生の問い掛けに、こくり、と頷いたら、くらり、と視界が揺れて、意識が遠退いていく。
先生の、紫穂ちゃん!という叫び声が耳に届いた気がした。
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