まず思い出すのは最初のバレンタイン。
紫穂ちゃんが中学一年生の時。
今思えば、あの時のバレンタインが全ての始まりになるのかもしれない。
チルドレンの三人で用意してくれた物とは別に、紫穂ちゃんから手作りのクッキーを貰った。普段お世話になってるから、とそっぽ向いて押し付けてきたそのクッキーには、少しの好意が思念として残っていて。純粋に嬉しかったのを覚えている。
身近な大人の男に憧れを抱くような歳になったんだなぁ、と思って、ホワイトデーのお返しには紫穂ちゃんの好きなブランドのハンカチと、彼女のお気に入りのチョコ菓子を送った。
その次のバレンタインは、手作りのチョコブラウニー。
今年もくれるのか、と驚いたのと同時に、去年の好意がまだ自分に向かっていることが嬉しくて、妙に感動してしまったのを覚えている。貰ったチョコブラウニーはほろ苦くて、やっぱり好意が思念として残っていて。
お返しは何が良い? と聞けば、ほんの少し頬を染めて、先生が選んでくれたものなら何でも嬉しい、と答えた紫穂ちゃんに、少し、気が引き締まる想いをしたのは今でも思い出せるくらい鮮明な記憶だ。
何となく思い立って、自分の複雑な女性関係の清算を始めたのはこの頃だった気がする。
そして、今年迎えた三年目のバレンタイン。
多分、これは、俺にとっても、紫穂ちゃんにとっても、忘れられない、始まりのきっかけ。
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