「トリックオアトリート!」
パソコンに向かっている先生の背中に向かって元気よく声を掛けると、呆れたような表情を浮かべた先生にジト目で睨み付けられた。
「……紫穂ちゃんさ、素直にお菓子貰いに来たって言った方がまだ可愛いぞ?」
そう言いながらもゴソゴソと白衣のポケットの中から私のお気に入りの飴を取り出した先生ににんまりと微笑みかける。
「だって。その飴一体どこで買ってるの? この辺のお店探しても売ってないんだもの。私、先生の飴好きなの」
だから頂戴? と可愛く首を傾げてみせれば、ハァ、と深く溜め息を吐いた先生はちょいちょいと手で私を呼び寄せる。やった! と、先生との距離を詰めると先生は無表情で飴の包装を破いてつやつやした丸い飴玉を指先で摘まんだ。
「……ん」
「……え?」
「ホラ、口開けろよ。アーン」
飴玉を口の前まで持ってきた先生は表情を動かさずに私が口を開けるのを待っている。
え? え? アーン? 何、ソレ?
こんなことされるのは初めてで動揺しているとほら早くと急かされてしまって、ドキドキしたまま恐る恐る口を開けた。すると先生はそっと飴を私の唇に近付けたと見せかけてパクリと自分の口に放り込んでしまう。あ! と思った瞬間、先生に手首を掴まれて先生の顔が至近距離まで近付いた。思わず身を退こうとしたら腰に手が回ってパクリと唇を食べられてしまう。慌ててギュッと目を瞑るとぺろりと舌で唇を舐められて無理矢理口をこじ開けられた。ぬるりとした感触が口の中を這い回ったと思ったら、コロリと舌の上に飴玉が転がって、お気に入りの味が広がる。そう言えば今された先生のキスもこの飴の味だったと気付いて、ワッと頭が沸いたように真っ白になった。ゆっくりと離れていく先生に合わせてそろりと目を開くと、ニヤニヤした先生と目が逢って。
「……飴のお返しはイタズラってコトで」
上がった息と力が入らない身体を支えるようにきゅうと抱き寄せられて、先生の肩に顔を埋めた。
「……もう! 普通にくれればいいじゃない!」
こんな風に強がってみたって、もう、さっきまでみたいに先生の顔を見ることなんてできない。これからどうすればいいんだろう、とドキドキ煩い胸の音を聞きながら、うまく回ってくれない頭を動かして一生懸命考えた。
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