紫穂ちゃんの誕生日にプロポーズしようと思ったら間男(仮)が現れて情緒をぐっちゃぐちゃにされた話。 - 6/12

「さて……じゃあどうして残業が増えてるのか説明してもらえるか?」
「……自分の業務が遅れてしまいました。以後気を付けます」
「……そうじゃなくて。業務が遅れてる原因を聞きたい。気を付けるだけじゃ改善できないだろ」

俺が本部に飛ばされていた間の報告を聞いた後、上司の顔をして核心に踏み込んだ。俺の執務室に二人きりとはいえ今はあくまで仕事中。昨夜のように丸め込まれるわけにはいかない。

「君が話さないなら他のメンバーから聴取させてもらう。それでいいんだな?」
「……そんなの卑怯よ」
「そうは言ってもな。これは俺の監督責任にもなるんだぞ。上司として今の状況は見過ごせない」

これは紫穂ちゃんが心配だからとかだけじゃなく、このチームを率いる者として当然の意見だった。まぁ相手が紫穂ちゃんじゃなければ、相手の事情も鑑みつつ周囲からそれとなく情報を集めて聞き出していたとは思う。それをしないだけ、ものすごく上司としては紫穂ちゃんに甘々だとそろそろ理解してほしい。

「俺は君の口からちゃんと聞きたい」

君の嫌がるコトはしたくない、と言外に含ませると、紫穂ちゃんは苦しそうに顔を歪めて無理矢理口を開いた。

「……ま、間島くんは……とても勉強熱心なので、彼の熱意に付き合ってると、業務時間を超えてしまうだけです」
「……なら、俺が業務時間外で時間を作って彼に付き合う。それでいいな?」
「それはダメッ! それだけは絶対にダメ!!!」

バッと顔を上げて今にも泣き出しそうな表情で紫穂ちゃんは訴えてくる。
そんなに辛いなら甘えてくれたっていいのに、どうしてそこまで頑ななんだ。
ハッキリとそう言ってしまえばいいものの、その勇気は出てこない。じわりと胸の奥に広がる不安が、やっぱり二人の間には何かあるんじゃないかと囁き始める。それを何とか見ないフリして、ふぅ、と溜め息を吐いた。

「……昨日からそればっかじゃん。ダメならダメな理由を教えてくれよ」
「それは……言えない。言いたくない」
「……わかった。今は聞かない。でもそのうち必ず話してもらうからな」

つくづく紫穂ちゃんには甘すぎるなぁ、と愚かな自分に泣きたくなりながら黙りこくっている紫穂ちゃんのそばに歩み寄る。そのまま悔しそうに顔を歪めている紫穂ちゃんを抱き締めて額と頬に口付けた。

「なッ! なにするッ!」
「何って……充電。肩に力入って張り詰めてるから、リラックスできるように」

オマケに唇の端にも口付けを落とせば、紫穂ちゃんは顔を真っ赤にして俺の胸に腕を突っ張って俺の身体を押し返した。

「しッ、神聖な職場でッ! そーいうことしないでッ!」
「……じゃあ今日は必ずシフト通りに帰宅すること。今日は早上がりだろ?」

クッと唇を噛んでもどかしそうに眉を寄せた紫穂ちゃんを解放して腕を組む。

「次、俺に黙って残業したら他のメンバーに事情を聞くからな?」
「ひ、卑怯よ!」
「俺が卑怯だと思うんなら、これからは俺に黙って残業しないんだな。三宮先生?」

やっぱり卑怯よ、と小さく呟いた紫穂ちゃんは悔しそうに顔を歪めて俺から視線を逸らした。その姿にもう半分負けそうになっている自分を自覚しつつ、無理矢理心を鬼にして紫穂ちゃんを仕事へ送り出した。

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