紫穂ちゃんの誕生日にプロポーズしようと思ったら間男(仮)が現れて情緒をぐっちゃぐちゃにされた話。 - 3/12

「うわっ……ひっさびさに聞いたなぁその名前」
「ホント……まだ絡んでくるんだ? 天敵くん」

ここでもまた『天敵』か。
じわじわと胸に広がる不安を表に出さないように気を付けつつ、核心を知りたくて更に探りを入れる。

「えっと……絡んでくる、ってことは、紫穂ちゃんはそいつに言い寄られてたの?」

それとも俺と付き合いだす前はそいつといい感じだったとか?
そこまで深く尋ねる勇気はなくて、内心びくびくしながら二人の返事を待つ。
すると二人は一瞬きょとんとした表情を浮かべてから、顔を見合わせてケラケラと笑い始めた。

「アハハハハないない! 紫穂と間島くんがどうにかなるなんて絶対有り得ないよ!」
「せやせや! 紫穂がアイツとどないかなるなんて、地球がひっくり返っても有り得へんわ」

絶対にない、と豪語している二人に、本当か? と疑いの眼を向ける。

「でもさ……俺とは今も付き合ってるじゃん。紫穂ちゃんにとってはさ、俺も天敵だろ?」
「ちゃうちゃう! 先生が紫穂の天敵やなんて有り得へんって!」
「そーだよ! 先生は紫穂の特別じゃん! 天敵なんかじゃないって!」
「特別……天敵じゃなくて?」
「そ! 紫穂にとって先生は最初っから特別な存在でしょ。じゃなきゃ付き合ったりしないって!」
「……そう、なのか」
「そうそう! やから安心してエエって。あぁ、でも先生は絶対アイツには関わらん方がエエで」
「だよね。紫穂の心労が増えちゃうよ」

ねー、とまた顔を見合わせている二人を眺めつつ、うーんと腕を組んで首を傾げる。

「それよりさ、その感じだと紫穂は今ソイツと関わんなきゃいけないんでしょ? なら思いっきり紫穂のこと甘やかしてあげてよ」
「せやなぁ、絶対参っとるやろなぁ……口では平気て言うてても信用せん方がエエで。いつも以上にヨシヨシしたってな」

多少大袈裟に言っているのかもしれないが、二人が紫穂ちゃんのことをとても心配しているのは充分に伝わってくる。
幸い、本部での仕事が速く済んだおかげで明日から医局に戻る予定だった。今日は紫穂ちゃんの家に寄って、二人が言うように紫穂ちゃんを甘やかした方がいいのかもしれない。

「……それにしても、二人はその、間島くんに会ったことあるのか? どんな奴だった?」

顔と簡単なプロフィールしか知らないのに、紫穂ちゃんとの関わりがあるせいか妙に気になって仕方がない。そんな俺の心理を見抜いているのか、二人は迫真の表情でニコリと笑った。

「先生は何も知らん方がエエ」
「知らぬが仏って言うじゃん。紫穂のためにも、先生は今後一切アイツに関わっちゃダメだよ」

ね、と念押ししてくる二人にコクコクと無言で頷く。
自分は何も悪いことをしていないはずなのに、まるでやらかしを指摘され追い詰められているような恐怖を感じる。
むしろこういうのは紫穂ちゃんから感じることが多いのに、この二人から自分が追い詰められているのが意外で、ますます間島という男が紫穂ちゃんにとってどんな存在なのか気になってしまった。
二人と食堂で別れてから携帯端末を操作して、自分のシフト変更を申請するついでに医局の勤怠記録を確認する。紫穂ちゃんの今日のシフトは定時上がりのはずだから、連絡を入れて晩ご飯の準備をしながら待てばいい。

「……は? ……どういうことだ?」

普段は白いだけの画面が超過勤務を表す赤いアラート表示に埋め尽くされつつある。
ある日を境に、スタッフの残業、特に紫穂ちゃんの残業が増えていた。なのに俺のもとには残業申請は届いていないし、何かトラブルがあったという連絡もない。俺が医局に戻ってからの報告でいいと判断したんだろうか。

「……それにしたって……こりゃ多すぎだろ」

ここ数日は毎日一時間以上、酷いときは三時間も残業をしているようで、ちゃんと休めているのか不安になってくる勤務時間だ。

「……もしかして」

間島のせいか? と思い日付を辿ってみると、確かに彼が現場に入るようになってから、スタッフ全員の残業が増え始めていることに気付く。

「飯食ったら紫穂ちゃんに聞いてみるか……」

皆本や薫ちゃん、葵ちゃんの様子から、紫穂ちゃんは素直に話してくれないかもしれないなと思いつつ、一抹の不安を抱えて紫穂ちゃんの家に急いだ。

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