「ってなワケで俺今仲間外れにされてんの。可哀想だろ? 慰めてよ皆本」
「ハハ……まぁ賢木が本部に来てくれて助かったよ。予定していたより早く評価を纏められそうだ」
「そー言ってもらえると紫穂ちゃんに飛ばされてきた意味もあったのかねぇ」
「紫穂は相変わらずなんだな」
皆本はカタカタとキーボードを叩く手を止めず苦笑いを浮かべた。
「ホントになー……あ、そうだ。皆本、紫穂ちゃんの同期で、間島って男知ってる?」
「まじま? ……マジマ……あぁ! 間島君!」
「知ってんの?」
「知ってるも何も、紫穂の天敵だろ?」
「は? 天敵?」
知らないのか? と首を傾げている皆本に、ヒヤリと冷たいものを飲み込みながら知らない、と小さく答えた。
天敵だって?
紫穂ちゃんの天敵は俺じゃなかったの?
初めて聞かされる紫穂ちゃんの天敵という存在に、驚くほど肝が冷えていく。
自分以外にもそんな相手がいるなんて紫穂ちゃんから聞いたことがなかったし、気配を感じることもなかった。しかも相手は男。だからあんな珍しい反応をしたんだろうか。その男の存在を、俺に知られたくなかった?
「……賢木? 大丈夫か?」
俺の顔を覗き込んでくる皆本の顔は不思議そうな顔をしている。その奥に滲む心配を払拭できるようぎこちなく笑った。
「あー……あぁ。そんな奴がいるって、俺、初耳だからさ」
「そうなのか? でも確かに、僕から賢木に伝聞するのを恐れてたのか、紫穂は僕の前であまり間島君の話題を出さなかったから。薫と葵はどんな子か知ってると思うぞ?」
僕も名前くらいしか知らないよ、と眉を下げて笑う皆本が俺の肩をそっと叩く。その手から伝わる、不安がることじゃないよ、という優しさが、今は俺の不安を煽って堪らない。
「……そんなに気になるなら、葵と薫に聞いてみればいいんじゃないか? 今日は二人とも本部で待機してるから」
ランチにでも誘うといいよ、と皆本は早速薫ちゃんへメッセージを打ち始めた。
確かに、薫ちゃんと葵ちゃんから話を聞けば、この言い様のない心のざわつきとはオサラバできるかもしれない。
皆本に、二人に好きなモン奢るって言っといて、と伝えて、逸る気持ちを抑えつつ食堂へ向かった。
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