紫穂ちゃんの誕生日にプロポーズしようと思ったら間男(仮)が現れて情緒をぐっちゃぐちゃにされた話。 - 12/12

「さぁ君の申し開きを聞かせてもらおうか」

あのまま、全てが終わったということには当然ならず、事の後始末、というものを誰かがしなくてはならないわけで、俺と紫穂ちゃん、そして事情を知っている藍田くんが、間島の身柄が保護されている面談室に集まっていた。

「……僕は自分の実力を認めてもらえば、賢木先生の考えも変わると行動したまでです。貴方に三宮はふさわしくない」
「じゃあはっきり聞く。そのふさわしくないっていうのはどっちの意味だ」
「……当然、どちらの意味も含めて、全てですよ。僕なら、貴方にふさわしい部下になれるし、貴方にふさわしいパートナーにもなれる。恋人としても同じ職の担い手としても、貴方を満足させられる」

コイツのその自信は一体どこから来るんだろう、と頭を抱えたくなっていると、紫穂ちゃんがこっそり誰にもバレないよう俺に触れた。そこから伝わってくる、コイツ本当にヤバイでしょ、という思念に、同感、と返しつつ、ウンザリばかりもしていられないので、頭を痛めつつ事態を収束させることにだけ集中した。

「君は優秀なのかもしれない。だからと言って俺は君を部下にすることはないし、君と親交を深めようって気持ちにもならない。今回のことは君の所属に全部報告させてもらう」

俺の言葉に顔を歪めて悔しそうに唇を噛んだ間島は、拘束されたまま自由に動かない足を一度だけ踏み鳴らした。

「……僕が皆本光一なら! 貴方の隣、その場所にいるのが僕だったら! きっと貴方は僕を見てくれたはずだ!」

今にも暴れ出しそうな間島を警備のスタッフが押さえつける。もうコイツには何を言っても届かないんだろうなと思いつつ、溜め息を吐いてはっきりと間島に告げた。

「他の誰かになろうとしてる時点で、俺がお前を見ることはねぇよ。どうせなら、お前自身で勝負できるくらい男として成長してこい」

コイツの所属まで強制送還するよう手配してくれ、と警備のスタッフに伝えて立ち去ろうとすると、間島は俺の言葉に何を思ったのか目にしっかりとした力を宿して 三宮ァッ! と腹の底から叫んだ。

「絶対! いつか! お前の場所を奪ってやるからな!!!」

首を洗って待ってろ!!! と噛み付くように喚いて連行される間島を見送っていると、バシン! と思い切り紫穂ちゃんに背中を殴られた。

「いってぇ! なにする!」
「ホント! そういうトコロ!!!」
「はぁッ?!」
「……紫穂先生の苦労が窺えますね……本当に、部長、そういうところだと思います」
「エッ、藍田くんまで!? どういうコト!!!」
「もう知らない! 先生が誰かにお尻掘られちゃってももう助けてあげないんだから!!!」

プリプリと肩を怒らせて荒々しく立ち去ろうとする紫穂ちゃんを追いかけようとすると、藍田くんが追い打ちをかけるように俺に耳打ちした。

「もう少し自覚なさった方が良いのでは? 紫穂先生に呆れられても知りませんよ」
「えぇっ! 何!? なんで?! 俺が悪いの!?」

とにかく紫穂ちゃんを追いかけないと、と慌てて走ってズンズン廊下を進んでいく紫穂ちゃんに無理矢理肩を並べる。

「なぁ何でそんなに怒ってんだよ。俺、別に男に興味ないの知ってるだろ? 女の子ももう君しか見てないじゃん」
「そういう自覚してないトコロがダメなのよ。ホント頭に来るったら!」
「えぇ……何、どういうことぉ……」
「ホント鈍感! なんでこんな! こんな……」

そこまで言って足を止めた紫穂ちゃんは、きゅっと唇を引き結んで黙り込んでしまう。

「……『なんでこんな男、好きになっちゃったんだろう?』 か?」

今まで幾度となく女の子たちに浴びせられてきた台詞がフラッシュバックする。
どんなシチュエーションでも大体こんなニュアンスだったように思う。
あーあ、結婚の約束もして婚姻届まで準備したのに俺フラれんのか、と自分でも思った以上に冷静に事態を受け止めていることに驚いていると、キッと鋭い目で俺を睨み上げた紫穂ちゃんが、ドン、と俺の胸板にパンチを繰り出した。

「……『仕方ないから最後まで私が面倒を見るしかないわね』が抜けてるわよ! バカ!!!」

頬をほんのり紅く染めた紫穂ちゃんは、バカ!!! ともう一度叫んで、フン! とその場を立ち去った。後ろから見える耳も赤くて、思わず殴られた胸元をぎゅっと掴む。

「し、紫穂ちゃん~」

俺の面倒、一生見て、と年上とは思えない情けないことこの上ない感動に浸りながら、宙に舞う足をばたつかせて紫穂ちゃんの背中を追いかけた。

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