陽だまりに水を差してはならない

お前も昼寝すればいいんじゃねぇか、とは言った。
言ったのは俺だ。ウトウトと陽だまりのあたたかさに包まれて今にも船を漕いでしまいそうなユウに、眠たいなら寝ればいい、と。
確かに言った。それはもう間違いなく。誤魔化しようのないくらいに。
だからと言って、まさか本当に寝るなんて思わねぇだろ。いくら俺の縄張りだと言ったって誰が来るかわからない場所で、呑気に、女がひとりで寝るなんて。いや、俺が目の前にいるんだが。俺だって男なんだぞもっと警戒しろと詰め寄りたくてもコイツはもう夢の中。ふざけてやがる。俺はいつも一緒につるんでる一年坊主どもと同じだって言いたいのか。俺はお前とダチになった覚えなんてねぇぞ。

「……ハァ」

肩を落として苛々する気分を溜め息と共に吐き出す。
無防備に寝顔を曝してもいいと思えるくらいの信頼を勝ち得たのだと言えば聞こえがいい。
だが、俺には警戒するに値しないと言われているようにしか思えない。
クソ、と胸糞悪い心地になりながらも、穏やかに眠るユウの顔を見ていればクサクサした気分は一気に晴れていくのだから俺も大概コイツに甘い。柔らかそうな頬をつねって起こすことも、スッと通った美しい鼻を引っ張って起こすことだって、どんな手段であっても今すぐコイツの安眠を妨害して自身の存在を知らしめることは可能なのに、陽の光を浴びてキラキラと輝く髪や透き通るような白い肌を見ているとそんな気は失せてしまう。
すぅすぅと緩やかに上下する胸元に目を遣って、そこに垂れる一房の髪をそろりと指先で掬う。サラサラと指から溢れていく髪は自分のものとは違う、絹糸のような柔らかさとしなやかな感触を手袋越しでも感じさせる。全てが指から落ちた後、もう一度髪を掬って、を繰り返し、いつまでも絡まない髪の毛はまるでコイツを守る天蓋のようだなと思った。らしくないことを考えた自分に眉を寄せて、その無防備な唇を喰ってやろうかと顔を近付ける。息遣いが鼻先に触れるくらい近付いて、そっと目を伏せようとしたところでユウがもぞりと肩を動かした。

「ん……」

悩ましげな吐息とともに溢れた声に尻尾も耳もビクリと逆立って、何をやっているんだ俺は、と正気に戻った。ユウを起こさないように気配を消して程よい距離を残し身体を離す。バクバクしている心臓を宥めるように呼吸を整えながら小さく舌打ちをした。

「……クソッ」

らしくない。本当にらしくない。
そもそもこんなところで寝る奴が悪いんだよ。
未だ穏やかな寝息を立てている草食動物を睨みつけて、ハァァ、ともう一度深く溜め息を吐いた。

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