もうこんなの考えたって仕方がないってわかっている。
それなのにどうしても気になって、つい目で追いかけてしまう自分がいやでいやで堪らなかった。
「やぁヒョーブ。君は相変わらず本当に美しいな」
「僕をおだてても交渉は有利に進ませないよ? 僕が美しいのは規定事項だからね」
フン、と鼻を鳴らしながら、肩に回された手をさりげなく避けた少佐は、挑発するように妖艶な笑顔を浮かべて相手の男を下から見上げていた。
「手厳しいな……せめてディナーだけでも一緒にどうだい?」
「気安く僕と遊べると思うなよ? 僕に選ばれるだけの何かをしてくれないとな?」
「へぇ……では君に選んでもらえるよう、いい方向へ話を進めさせてもらおう」
「舐めてもらっちゃあ困るな……僕はそんなに尻軽じゃないぞ?」
ニタニタと口元を歪めながら男を見上げている少佐は、お互いの腹を探るように男と見つめ合っている。
ねっとりとしたその視線の遣り取りに、ぷつんと自分のなかの何かが千切れて、ぱっと顔を背けそのまま背を向けてしまう。
どうせ自分はこの商談に参加させてはもらえない。
俺がここから居なくなったってなんら問題はないはずだ。
少佐にはマッスルがついている。
それに、あの人がそこら辺の雑魚に負けるわけがない。
手のひらに爪が食い込むくらいぎゅっと力を込めながら、俺はそっとその場を立ち去った。
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