「ね、私じゃダメなの?」
「んぁ?どうした、急に」
後ろから急に声を掛けてきた紫穂に振り返る。そこには特に感情が読み取れない表情をした紫穂が立っていて。俺の研究室の扉が閉まると同時に紫穂は一歩俺に近付いた。
「だって何か悩んでるでしょ?」
私じゃ力になれないのかなって、と俯き加減で告げる紫穂に、ドキリとした。悩んでることなんて、表に出した覚えがない。それに、隠し事ができない彼女相手に透視された覚えもない。なのに、何故。
「…わかるよ」
もう一歩、紫穂が俺に近付く。お互いのパーソナルスペースを侵すか侵さないか、ギリギリの距離。
「ずっと先生のこと、見てるもの」
泣きそうな笑顔で笑う紫穂に、胸がキシリと音を立てた。思わず俺からも一歩近付いて、パーソナルスペースを侵す。じっと俺を見上げる紫穂の頬に、そっと触れた。
「ホント、君には隠し事できないな…」
キメの細かい肌をするりと撫でて、そろそろと紫穂を抱き締める。一瞬だけ身体を硬くした紫穂は、ゆっくりと力を抜いて、俺の背に手を這わせる。
「先生が、好きだよ…」
「うん、ありがとな」
君を一番にしてやれない男で、ゴメンな。
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